家族に忘れられた中年男と犬との死出の旅、とは身近過ぎて背筋がピッと伸びそう。どのように調子よく生きても最期はこうなる、という諦念がそこにはあった。
北海道の田舎、キャンプ場近くの草むらで、ワゴン車が見つかり、中から死後半年の中年男の白骨死体と死んで間もない犬の遺体が発見される。市役所は始末に困るが、読書だけが趣味の真面目な公務員・奥津(玉山鉄二)は市役所福祉課職員として残された数枚のレシートを手がかりに東京から身元探しを始める。そんな彼に、オーディション落選少女・有希(川島海荷)が強引に同行、風変わりな2人の旅が始まる…。
映画は奥津たちの旅で中年男と愛犬(ハッピー)の旅を明らかにしていく。東京の住所に家はなく、旅館のおかみ(余貴美子)、コンビニ店主(中村獅童)、リサイクルショップの主人(温水洋一)と妻(濱田マリ)、物静かなレストランのオーナー(三浦友和)…ハッピーと中年男と交流のあった人々の話から男と、彼を見守るようなハッピーの、死に場所を探すような旅の様子が分かってくる。
中年男と市役所員たちを交互に描くスリリングな構成で見ているうちに謎を追う気になる。一体なぜこんなことになったのか、市役所員はなぜ中年男の後を追うのか。彼は「人間の一生といっても、精々1冊の本」という考えだったが…。
中年男の過去は終盤に本人の回想で明らかになるが、溶接工の本人はリストラ、娘はさっさと家出、妻(岸本加世子)は無気力な夫に愛想をつかし「憎いわけじゃない」と言いながら自分の道(介護ヘルパー)へ。で、男には最初は娘が飼い始めたハッピーしか残っていなかったのだった。
犬嫌いだった男は、一度はレストランの主人に預けようとしたが、あまりに吠えるため断念、最後は互いに寄り添うように車の旅を続ける。心臓に持病がある中年男はついにキャンプ場近辺で命尽きる。もう食べられないのに主人のために食物を持ってくるハッピーが健気。知っているだろうに、ハッピーはその後、半年も主人の目覚めを待つのだった。
犬好きならずとも胸かきむしられるような愛切さが漂う。妻子から愛想つかされながら、犬だけは恩?
を忘れることなく、最期を看取るなんて…。ラスト、画面いっばいのひまわりの中に座る中年男とハッピーはおそらく天国なんだろう。ハチなどとは違う形の希有な愛犬映画だった。 |