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 瞳は静かに
『瞳は静かに』 (Andres no quiere dormir la siesta)
〜子供の目に非情の光を生み出す社会とは〜

(2009年 アルゼンチン 1時間48分)
監督・脚本:ダニエル・ブスタマンテ
出演:ノルマ・アレアンドロ,コンラッド・バレンスエラ,
    ファビオ・アステ,セリーナ・フォント

2011年12月10日〜新宿K’sシネマ、渋谷アップリンク 他全国順次公開
2012年1月7日(土)〜梅田ガーデンシネマ、順次京都シネマ、神戸アートビレッジセンターにて公開

公式サイト⇒ http://www.action-peli.com/andres.html

 アルゼンチンでは,1976年3月のクーデターでビデラ将軍が大統領に就任した後,軍事政権下で厳しい弾圧が行われた。近所の人たちが情報を交換し合いながら,身をすくめて暮らしていた。本作は,時代背景が軍事政権下であることを明確に示さないまま物語を進行させる。だが,反体制派と目されることが生命の危険を意味することは伝わってくる。平穏と不穏とが日常の中に同時に存在する社会状況の中で,1人の少年が変ぼうしていく。
 冒頭で,子供たちが警官・泥棒ごっこをして遊んでいる様子が映される。警官役のアンドレスは,捕まえたクララを逃がしてやるという優しさを見せる。その彼が,約1年後には心臓発作で倒れた祖母オルガを放置して立ち去るという非情さを見せる。本作は,その間の家族の姿を通して,言動を制約された社会が家族や個人に及ぼす影響を浮かび上がらせていく。とりわけ,明るさを失って目に冷たい光を宿すアンドレスのショットは強烈だ。
 彼は,母ノラの家で兄アルマンドと暮らしていた。ノラは,夫ラウルと別居し,反体制活動をするアルフレドと親しくしていたが,突然事故で死亡する。その直前に,ノラとアンドレスがラジオから流れてくる曲に合わせて歌うシーンがあった。愛する人と二度と会えないと思ったとき,そこにあなたがいた,という内容の歌詞だ。居場所を失ったアンドレスの郷愁だけでなく,オルガの心の奥に眠る祖国への思いにも繋がるものが感じられる。
 アンドレスの読む本には,1816年7月トゥクマンに終結した議会はラプラタ諸州連合の独立を宣言したと記されていた。祖国アルゼンチンの原点を忘れてはならないという,監督の思いが表れているようだ。だが,現実はオルガの言うとおり身内に政府の手が伸びないように,弾圧の光景は夜の夢に過ぎないと思い,反体制派のビラは封印しなければならない。そんな社会が個人の内面に深い傷跡を残すことを,本作は静かに力強く訴えている。
(河田 充規) ページトップへ
   
             
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