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★引き裂かれた女
『引き裂かれた女』 (LA FILE COUPEE EN DEUX)
〜円熟味のある映像で見る心理サスペンス〜

(2007年 フランス 1時間55分)
監督:クロード・シャブロル
出演:リュディヴィーヌ・サニエ,ブノワ・マジメル,フランソワ・ベルレアン,マチルダ・メイ

2011年4月〜渋谷シアター・イメージフォーラム、
7月9日(土)〜第七藝術劇場、京都みなみ会館
近日〜神戸アートビレッジセンター  ほかにて公開
公式サイト⇒ http://www.eiganokuni.com/hiki/
 1930年生まれで2010年に亡くなったクロード・シャブロル監督の,熟練の香りに満ちた映画だ。登場人物の表情や台詞を生かした語り口が巧く,滑稽で不可解な男女の機微が鮮明に映し出される。米国で1906年に起きた,建築家スタンフォード・ホワイトが愛人の夫に撃ち殺されるという事件を基にしている。本作では,作家サン・ドニが愛人ガブリエルの夫ポールに撃ち殺される。ガブリエルを主役に据えて,3人の歪みをあぶり出していく。




 ガブリエルは,TV局のキャスターで,母親より年上のサン・ドニにぞっこんだ。サン・ドニは,結婚して25年になる妻を愛しながら,ガブリエルと一夜を過ごすが,ベッドの上で遠くを見つめるような表情を見せる。ポールは,金持ちのわがままな御曹司で,ガブリエルに一目惚れして言い寄るが,まともに相手にされず,サン・ドニに敵対心を抱く。3人の関係が丁寧に描かれるが,サン・ドニが突然ガブリエルの前から姿を消してしまう。

 3人を取り巻く人物にも興味をそそられる。サン・ドニの友人で編集者のカプシーヌは,男女の裏表を熟知したように超然としているが,要するに自分に素直に生きているのだろう。サン・ドニの妻は,夫の行状全てを受け入れているようだが,来世は男に生まれ変わるのが望みだと言っている。ガブリエルの母親は,娘に対する負い目と妬みを抱えているようで,ふさぎ込んでいるガブリエルに”眠れる森の美女”よろしくポールを差し向ける。

 ガブリエルは,サン・ドニに対する当て付けのようにポールと結婚するが,その眼中にはサン・ドニしか存在しない。ポールは,自分を超越する存在への嫉妬に苦しめられ,妻を堕落させた怪物サン・ドニを打ち倒す。2人の心に歪みをもたらしたサン・ドニは,完璧な妻に囲われる中で,のた打つようにガブリエルを求めていたのかも知れない。原題の「2つに切られた娘」ガブリエルが再びステージに立って浮かべる微笑が不敵にも見える。
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