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★光のほうへ
『光のほうへ』 (SUBMARINO )
〜何かに耐えながら生きる人々にも希望の光が〜

(2010年 デンマーク 1時間54分)
監督・脚本:トマス・ヴィンターベア
出演:ヤコブ・セーダーグレン、ペーター・プラウボー、パトリシア・シューマン、モーテン・ローセ

2011年6月4日よりシネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
公式サイト⇒  http://www.bitters.co.jp/hikari/










  まだ少年だった兄弟がミルクを万引きして赤ん坊の世話をしている。赤ん坊は男の子だが、名前はまだない。酔って帰って来た母親は理不尽にもニックの頬を殴る。その母親をみる彼の目に憎しみと憐れみが混じり合う。そんな境遇の兄弟が束の間の解放感に浸っている間に赤ん坊が目を覚まさなくなった。泣いていた赤ん坊を気に留めなかった2人は、その瞬間から重荷を背負って生きることになる。本作の核心に連なる重要なプロローグだ。

 青年になったニックは、怒ってばかりいる。抑え切れない苛立ちを抱えている。何もできないまま時間が過ぎていく。右向きに座り一人でビールを飲むニックを映したシーンが冷ややかで美しい。幼い弟を失い、愛するアナに捨てられた。そんなニックの傷口からにじみ出る哀しみが漂っている。アナの兄イヴァンもまた心に問題を抱えている。女性と上手く接することができず、すぐ暴力を振るってしまう。2人とも不器用にしか生きられない。

 そんな男がもう一人いる。ニックの弟だ。妻を亡くし、幼稚園に通う息子マーティンと2人で暮らしている。大切なのは息子だけだと言いながらも、薬物に依存せずには生きられない。息子のためとはいえ、密売にまで手を染める。その姿は閉塞感を漂わせて痛々しい。この弟には、なぜか名前がない。人間のはかなさと切なさを体現しているようだ。疎遠だった兄弟は、母親の死が切っ掛けで再会する。そして、ニックがマーティンと出会う。

 甥の名前がマーティンであると知ったときのニックの表情は見逃せない。このとき、ニックには弟の心がはっきりと見えたに違いない。観客にもやがてそのことが分かる。弟は力尽きた感じで消えていくが、ニックは生きていく。アナとも正面から向き合って別れの言葉を交わす。ニックにはやっと光が見えた。甥と手をつないで一歩ずつ光のほうへ進んでいく。その後、マーティンの名前の由来が明かされるとき、人生の重さを実感させられる。
(河田 充規)ページトップへ
   
             
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