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★ヒアアフター
★ヒアアフター (伊藤久美子バージョン)

(C)2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
『ヒアアフター』 (HEREAFTER)
〜死を通じて、再び“生”に向き合う力〜

(2010年 アメリカ 2時間09分)
監督:クリント・イーストウッド
出演:マット・デイモン,セシル・ドゥ・フランス,ジェイ・モーア,ブライス・ダラス・ハワード,ジョージ&フランキー・マクラレン

2011年2月19日(土)〜全国ロードショー
公式サイト⇒ http://www.hereafter.jp
 死後の世界、あの世を意味するタイトルから連想されるものとは違い、描かれるのは、今を生きる3人の姿。死に関わる大きな体験により、現実とうまく向き合えなくなり、孤独に苦悩する…。旅行中に遭遇した津波での臨死体験を忘れられないジャーナリストのマリー。死者と対話できる力ゆえに誰とも親しくなれず、呪われた才能だと心を閉ざす霊能者のジョージ。双子の兄を交通事故で亡くし、兄と話したいあまり霊能者を訪ね歩く少年マーカス。
  『インビクタス/負けざる者たち』で、ラグビーチームを率いる主将を華々しく演じたマット・デイモンが、一転して、暗い過去を持った陰鬱な青年の心の葛藤を好演。何もかもから逃げ出しロンドンを訪ね、好きな作家ディケンズの博物館を見学したり、ブックフェアの会場を訪れ人ごみの中をさまよう姿は、どこにでもいそうな平凡な一青年で、その変わりように驚く。
 死んだら、どうなるのかなんて、誰にも分からないし、何を信じるかもその人の自由だ。死は身近なことだし、死後について考えることは、本来、生きる力につながるはず。死後の世界について考え、発信する人を、変な人だと偏見を抱くこともおかしい。『グラン・トリノ』で、老年にさしかかった男の潔い死にざまを描いたクリント・イーストウッド監督が、そういう偏見を受けかねないのも承知の上で、大胆なテーマに挑んだ。この死にまつわる脚本をイーストウッド監督に薦めたのは、本作で製作総指揮を務めるスティーヴン・スピルバーグで、イーストウッド監督も、3人のストーリーに奥行きがあり、つながっているところも気に入ったとのこと。
 マーカスがジョージに会いにいき、対話するシーンがすばらしい。兄に会いたい、僕を一人にしないでと不安に震える瞳で訴えるマーカスに、ジョージは、「僕はいつも一緒にいる」という兄の言葉を伝える。身近な人、愛する人の、突然の死のショックで生きることを見失い、自分の周りにいる人たちとも向き合えなくなってしまった人たちが、新たな出会いを通じて、再び、“生”に目を向けられるようになるすばらしさ。どんなに悲しくつらい別れを経験しても、生き続けるためにこそ、来世観があるのだろう。
  冒頭の津波のシーンを除いては派手な展開もなく、今までの、劇的なドラマの力にあふれたイーストウッド監督の作品群に比べれば、物語自体の求心力は弱いかもしれない。でも、考えさせられるところが多く、決して期待を裏切らない。見終わって、感動が波のように静かに打ち寄せる力強い作品だ。監督が音楽も担当しており、エンドロールに流れる音楽がすばらしい。ぜひ耳をすませ、深い余韻に浸ってほしい。
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★ヒアアフター (河田充規バージョン)

(C)2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
『ヒアアフター』 (HEREAFTER)
〜死との関わりから生きる意味を模索する〜

(2010年 アメリカ 2時間09分)
監督:クリント・イーストウッド
出演:マット・デイモン,セシル・ドゥ・フランス,ジェイ・モーア,ブライス・ダラス・ハワード,ジョージ&フランキー・マクラレン

2011年2月19日(土)〜全国ロードショー
公式サイト⇒ http://www.hereafter.jp
 HEREAFTER(来世)という題名が付けられているとはいえ,死後の世界を映像化しようとしたものではない。人は死んだらどうなるのかという疑問を出発点として,人が生まれて死んでいくことにどういう意味があるのかを問い掛けてくる。3人の人間が違った形ではあるが,いずれも人の死に直面し,そのためにそれぞれ苦悩している。3人がロンドンで出会うことになるのだが,当然のことながら,そこから明快な答えが得られるわけではない。
 マリーは,旅行先の海辺の町で大津波に襲われ,水中に引き込まれて臨死体験をする。パリに戻った後もその体験に取り憑かれ,全ての人には必ず死が訪れるという意識が頭から離れなくなる。恋人にも理解してもらえず,世間から隔絶した感覚に覆われていく。それでも自らの体験を本にして出版し,自分を受け入れてくれる人を求め続ける。彼女は,ロンドンでマーカスを介してジョージと出会うことで,不安から逃れる糸口を見付けたようだ。
 ジョージは,死者の声を聞くことのできる霊能者だ。愛する人の死を受け入れられない人々からは,死者との再会のために利用される。また,人の身体に接触すると,その人と死者との秘密まで見えてしまうという,自らの能力に苦悩している。それを象徴的に表現したのが,料理教室で知り合ったメラニーとのエピソードだ。彼女は,封じていた過去をジョージに見られ,彼の前から姿を消してしまう。1人残されたジョージが小さく見える。
 マーカスは,ある日突然いつも頼りにしていた双子の兄を失うが,その事実を受け止められない。もう一度兄と話したいとの強い願いが,ジョージとの出会いを引き寄せたのかも知れない。これによって,マーカスは兄ときちんと決別することができた。そして,ジョージは普通に握手することのできる相手マリーと出会えた。3人とも,死との関わりに展望が見えて苦悩から解放されたに違いない。もっとも,死生観を探求する旅はまだまだ続く。
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