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★彼女が消えた浜辺 |
(c)2009 Simaye Mehr. |
『彼女が消えた浜辺』 DARBAREYE
ELLY/ABOUT ELLY
〜忽然と消え去ったエリを巡る極上ミステリー〜
(2009年 イラン 1時間56分)
監督・脚本:アスガー・ファルハディ
出演:ゴルシフテェ・ファラハニー,タラネ・アリシュスティ,シャハブ・ホセイニ,メリッラ・ザレイ
2010年9月11日よりヒューマントラストシネマ有楽町にて公開
関西では、9月18日〜テアトル梅田、秋〜京都シネマ、シネ・リーブル神戸にて公開
公式サイト⇒
http://www.hamabe-movie.jp/ |
テヘランの北方にカスピ海があり,その南端にチャルースという町がある。3組の夫婦と独身の男女1人ずつがその近くの浜辺に3日間のヴァカンスにやって来た。浜辺に打ち寄せる波の音がサスペンスを予感させる。アーマドはドイツ人の妻と離婚したばかりで,エリは独身女性だ。セピデーが2人を引き合わせようとしていた。だが,エリは,浜辺に着いたばかりだというのに,携帯電話で明日の午後に出れば夜中には帰れると話している。 |
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アーマドは別れた妻に「永遠の最悪より最悪の最後がまし」と言われたと話す。「その通りよ」と答えるエリの表情には陰りがある。彼女は何を思っていたのだろうか。2日目,1泊の予定で来たと言うエリを,セピデーがかなり強硬に引き止める。その後でエリが凧を揚げるシーンがいい。糸を持って浜辺を走り,本当に楽しげな笑顔を見せる。凧揚げに興じながら,何を見ていたのだろうか。彼女は「行かなきゃ」という言葉を残して消えた。 |
人々は社会生活の中で他者をどの程度理解しているのだろうか。他者の真の姿まで理解しようとはしていないのかも知れない。残された7人の男女は,セピデーを含め,エリの本名さえ知らなかった。そもそも人間の心裡を一義的に捉えることはできないだろう。それはエリが消えた理由のように複雑で謎めいたものに違いない。エリに対する評価も好ましい女性から不可解な女性へと変化する。重苦しい雰囲気の中,波の音だけは途絶えない。 |
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エリの婚約者アリレザが登場して佳境に入る。男を紹介するための旅行だとばれると騒動になるという。そこで,これを避けるために口裏を合わせようとする。セピデーは,事態を悪化させないためにエリを裏切らざるを得ない立場に置かれ,苦渋の選択を迫られる。このとき緊張感が最高潮に達する。相変わらず波の音が流れている。それは,不安や動揺の表れであったり妙な静けさを秘めていたり,まるで人間の心のように様々な変化を見せる。 |
浜辺という空間の設定が絶妙の効果を上げている。浜辺は水の底に通じる。水面から底を見ることはできない。溺れたかも知れないエリを探すシーンでは水が不気味に動いている。そんな場所を背景として,エリを巡って変化していく人々の心模様が克明に刻まれ,必然的にミステリーの様相を帯びる。後輪が砂に埋まった乗用車を脱出させようとする様子をロングで捉えたショットに何だかほっとする。それは緊張から解放されたからだろう。 |
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