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★蜂 蜜

(C) 2010 Kaplan Film Production & Heimatfilm GmbH + Co KG

『蜂 蜜』 (BAL)
〜写実的で力強い映像に幽遠な人生を見る〜

(2010年 トルコ,ドイツ 1時間43分)
監督・共同脚本:セミフ・カプランオール
出演:ボラ・アルタシュ,エルダル・ベシクオール,トゥリン・オゼン

2011年7月2日より銀座テアトルシネマほか全国にて順次公開
7月2日(土)〜テアトル梅田、8月〜シネ・リーブル梅田、秋〜京都シネマ にて公開
公式サイト⇒  http://www.alcine-terran.com/honey/
 本作は,ユスフ三部作の完結編で,ユスフという人物の少年期を描いている。第一部の「卵」(2007)では壮年期,第二部の「ミルク」(2008)では青年期のユスフが描かれていた。詩人ユスフが40歳,18歳,6歳と若返っていくという構成だ。しかし,時代を遡るという感覚は希薄で,同時代を生きる三世代のユスフの姿を映し出しているようだ。監督は,「キャラクターの皮をだんだんと剥いてその核心にたどり着きたかった」とコメントしている。
 第一部は,母の葬儀のためイスタンブールから故郷に帰ったユスフを描いている。手の平から卵が落ちて割れる。ユスフがアゴひげを剃る。日常を離れた始原への旅の始まりだった。第二部では,彼は,牛乳屋を営む母と暮らしながら,自作の詩を雑誌に投稿し,やっと掲載される。その詩を読んだ母の思い込みが微笑ましい。同時に,感性の豊かなユスフの眼差しが心に染みてくる。ただ一つだけ前二作に欠けていたものは,父の存在だった。
 第二部では,安直な感情移入を拒絶するように,ユスフとの一定の距離が保たれている。これに対し,集大成となる本作では,カメラがユスフに寄り添っており,優しい温もりが感じられる。ユスフの嫌いなミルクを父が母の目を盗むように代わりに飲んでやる。その父に向けられたユスフの嬉しそうな表情。父と2人だけで共有する夢の内容。樹上で養蜂をする父をユスフが下で手伝っている。言葉は交わさなくても心が触れ合う父と息子の絆。
 父は,ハチ箱の置き場所を探しに出掛ける。「僕も行っていい?」と尋ねるユスフに「誰が家を守る?」と答える父。父の不在に母が悲しみを募らせる中で,ユスフはミルクを飲んでみせる。水面が揺れるとそこに映る月も歪むが,月は再び姿を見せる。教室で詩を語っている女の子を見てそっと微笑むユスフ。写実的な絵画を思わせる安定感のある構図と色彩が圧倒的な力で迫ってくる。神秘の森に包まれて寝息を立てるユスフに心が洗われる。
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