元英国首相アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)に自伝執筆のために雇われたゴーストライター(ユアン・マクレガー)の“恐怖体験”談。一見、ハリウッド流サスペンスに見えるが、ポランスキーの醸し出す空気はそんな生易しいものじゃない。冒頭、海岸に打ち寄せられた死体から波乱の幕開け。この遺体が前任のゴーストライターと分かったから何かが起こるあやしい雰囲気が立ち上る。ユアンは出版社の面接を受け、報酬25万ドル、期限は1か月以内でゴーストに決まる。作家志望で政治に興味ないユアンだったが。
彼が取り掛かろうとした矢先、元首相に疑惑勃発。ラングがイスラム過激派のテロ容疑者への拷問に加担した疑いがかかる。その影響で元首相近辺は大騒ぎ。ラングの妻(オリヴィア・ウィリアムズ)、秘書(キム・キャトラル)らクセ者ぞろいの環境で前任者の初稿を読んでみたら、想像以上に酷いシロモノだった……。
これでも冒頭部分。前任者はなぜ死んだか。その謎を追ううち、ラングの秘密の過去に行き当たり、疑惑はふくれ上がっていく。ラングは一体何者なのか?
アメリカにいるラングが「英国に帰国したら起訴される」という怯える心境はポランスキー本人のものに違いない。人生の大半を“異邦人”として暮らしてきた異才の根無し草の心情が一見分かりやすい物語に深い陰影を付け加え、ゾクゾクさせるサスペンスにつながっている。収容所を逃れて以来、果てしなく続くポランスキーの人生に平穏な日は訪れるのだろうか。「ゴーストライター」とは、世界各国を渡り歩いて映画を撮り続けるポランスキーの自己とう晦なのかもしれない。 |