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★復讐捜査線

(C)2009 GK Films, LLC. All Rights Reserved.

『復讐捜査線』 (Edge of Darkness)
〜メル親父も“反原発”へ立つ!〜

(2010年、アメリカ・イギリス、1時間56分)
監督:マーティン・キャンベル
出演:メル・ギブソン、レイ・ウィンストン、ダニー・ヒューストン、ボヤナ・ノバコビッチ、ショーン・ロバーツ

2011年7月30日(土)〜梅田ガーデンシネマ、109シネマズHAT神戸、新宿ミラノ 他全国ロードショー
公式サイト⇒  http://www.fukushuu-movie.com/
 めっぽう強かった「マッドマックス」シリーズ、ダニー・グローヴァーと無敵のスーパー刑事コンビを組んだ「リーサル・ウェポン」シリーズ。メル・ギブソンのイメージは“強い男”に違いない。近年、飲酒運転やユダヤ人差別発言、昨年には恋人へのDV疑惑が発覚しすっかりお騒がせ男になってしまった感があるが、本作では最愛の娘を目の前で殺されたオヤジのモーレツな復讐活劇のヒーローを演じている。戦う相手の大きさに復讐の情念が燃えに燃える。相手が政府の秘密組織、しかも核兵器関連、娘は放射能被害者となれば今の日本の放射能汚染にもかかわる物語、決して絵空事、他人事ではすまないサスペンスアクションである。
 ボストン警察殺人課のベテラン刑事トーマス・クレイブン(メル)は久しぶりに帰ってきた娘エマ(ボヤナ・ノヴァコヴィッチ)と過ごしていると、娘がおう吐し始め、病院へ行こうとした矢先、玄関で男が「クレイブン!」と叫んでショットガンを発射、犯人の車は逃げ去り、エマはトーマスの腕の中で息絶える。
 娘だけが生きがいだったトーマスの絶望! 「体調が悪い」といって打ち明けようとした話は何だったのか? 警察は「トーマスを狙った犯行」とみるが、犯人の狙いはエマだった。そこから徐々に明らかになる犯人、というより国家的な犯罪にまで行き着く一刑事の捨て身の行動には説得力がある。「もう失うものはない」という男だけが戦える巨大な敵だった…。
 最近の米映画はずっと低迷してきた感が深い。ヒットするのはもっぱらファンタジー系。子供が魔法を使って世界を救う、というお子様向けの“童話”的世界が圧倒してきた。大人を納得させる映画の欠如。それはズバリ敵がいないこと、ではないか。戦争中は長い間、ナチスドイツが憎むべき大敵だった。007全盛期は敵はソ連と相場が決まっていた。ソ連崩壊後は、南米の麻薬組織やアメリカがいう悪の三国(イラン、イラク、北朝鮮)、そしてイスラム・アルカイダ=テロリストが戦争映画でもスパイ・サスペンスでも主役(敵役)を務めてきた。だが、ヒーロー映画はズバリ敵の巨大さカタルシスを決定する。アメリカは近年、大きな敵に困っていたのがアクション映画低迷の原因だった。

 「復讐捜査線」のタイトルはいかにもメル・ギブソンのB級アクション映画風だが、敵は他でもない自国にいたところが興味深く、スケールの大きな構えに引き込まれる。トーマスはエマの所持していた拳銃からボーイフレンドの存在を知り捜査を始めるが、男は怯えるだけで何も話さない。彼女の持ち物の中から、なんとガイガーカウンターが出てきて、エマの髪の毛に激しく反応する。彼女が勤めていたノースモア社は政府の業務で核物質を保管していることを突き止める。一方、国防総省では、スキャンダルをもみ消すプロが雇われ、トーマス抹殺に動く…。

 アクション映画に核問題を取り込み、謎の奥深さ、敵=国家機密の大きさでヒーローの捨て身の攻撃に肩入れしたくなる。メル・ギブソン、久々の痛快丸かじりだった。
それにしても、メルオヤジ、おん歳55歳、一回り小さくなったようだが、時々死んだ娘が現れて一緒にひげ剃りする場面など、切ないほどの親子の情愛と深い喪失感を感じさせる。フツーのオヤジが、ひとつことが起こればべらぼうにたくましくなる。バイオレンスは、巨大な敵だけにしとけばよかったのに…。
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