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★フェアウェル さらば、哀しみのスパイ
『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』
〜ソ連崩壊の10年前に一体何があったのか〜

(2009年 フランス 1時間53分)
監督・脚本:クリスチャン・カリオン
出演:エミール・クストリッツァ,ギヨーム・カネ,ウィレム・デフォー,アレクサンドラ・マリア・ララ,インゲボルガ・ダブコウナイテ,エフゲニー・カルラノフ

2010年9月11日(土)〜テアトル梅田、秋〜京都シネマ、シネ・リーブル神戸 にて公開
公式サイト⇒ http://www.farewell-movie.jp/
 フェアウェルと呼ばれた男が心から愛していたのは,息子と祖国だった。彼は,KGBのセルゲイ・グリゴリエフ大佐で,国家機密を西側諸国に流していた。情報を受け取っていたのは,会社勤めのフランス人ピエールだ。セルゲイは,1917年の革命当時の祖国は中世だったが,その後40年余で人類初の宇宙飛行に成功したと,ピエールに自慢する。だが,彼は,国家が行き詰まっていると実感していたからこそ,行動を起こさざるを得なかった。
 セルゲイは,自分は世界を変えられるという信念を持ち,息子のために現体制を崩壊させて新しい世界を残そうとする。ピエールは,国家のために家族を犠牲にできないと言っていたが,次第にセルゲイとの交流を深めていく。セルゲイは,息子イゴールとの距離をなかなか埋められない。ピエールは,家族を危険から守ろうとする妻ジェシカとの距離を広げてしまう。この2つの家族に焦点を絞ったことで,人間味の濃い身近なドラマとなった。
 米仏の大統領やCIA長官が登場し,家族と国家が対置される。息子が父に家族にはウソをつくなと言い,妻がウソをつく夫は信じられないと言う。一方,国家は,国民の信頼を維持するために不都合な事実を隠し通す。ソ連内の情報源を守るために個人を犠牲にする。だが,セルゲイは,何もかも変わると信じ,変革には犠牲が伴うことを受け入れている。その彼が,面会に来た息子に対し,感極まって思い切った行動に出るシーンが痛切だ。
 ピエールは,乗用車に妻子を乗せ,フィンランドとの国境に向かって800キロの雪道をひた走る。緊迫した状況の中,彼らが無事に国境を越えられることをただ祈るしかない。一方,捕らわれたセルゲイには,彼が切望した新世界をぜひ見て欲しいと願わざるを得ない。エンディングでは,スクリーンの右下にFAREWELL(さらば)という文字が浮かぶ。監督は,ここにセルゲイの魂が不滅だというメッセージを刻印しようとしたのかも知れない。
(河田 充規)ページトップへ
   
             
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