『トレイニング・ディ』のアントワーン・フークア監督が再びイーサン・ホークを起用して描くクライム・サスペンスと聞いて、観る前からぐっと期待が高まった。しかも、リチャード・ギア、ドン・チードルのハリウッド実力派俳優トリプル主演となれば、「なんと豪華!」と思ってしまうのは私だけではないだろう。
舞台はニューヨークのブルックリン。麻薬、強姦、誘拐など日常茶飯事の犯罪多発地区の管轄に勤務する麻薬捜査官サル(イーサン・ホーク)、退職を目前にしたベテラン刑事エディ(リチャード・ギア)、そして地元のギャングで潜入捜査を続けているタンゴ(ドン・チードル)の運命は、ある日起きた警官による強盗殺人事件をきっかけに大きく動き始める。
次々と犯罪が起こる街やアジトの様子をリアルに映し出しながら、三人の刑事の職場での姿、そして家庭での姿をきっちりと描写し、それぞれのキャラクターを見事に浮かび上がらせている。最初は犯罪撲滅を“正義”として闘ってきたはずの彼らに、“正義”のための犠牲があまりにも重くのしかかっていくのだ。どんどん精神的に追い詰められる主人公たちを、イーサン・ホークは鬼気迫る形相で、リチャード・ギアは悟りきったような形相で、そしてドン・チードルは苦悩をにじませた形相で演じ、ストーリーに緊迫感とずっしりとした厚みを与えている。
クライマックスのラスト、三人の運命が交錯する瞬間を目の当たりにし、改めて“正義”とは何なのかを想い巡らせることだろう。過酷な状況に置かれたとき、“正義”は都合のいい言い訳にもなり得る。凄まじい犯罪の現場や、ガンアクションでハリウッド映画らしい要素を盛り込みながら、人間の内面の葛藤を力強く描いた骨太の人間ドラマだ。