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★冷たい熱帯魚

(C)NIKKATSU
『冷たい熱帯魚』(英題:COLD FISH)
〜手加減なし! 一瞬たりとも目が離せない
             バイオレンスエンターテイメント〜

(2010年 日本 2時間26分 R−18
監督:園子温
出演:吹越満、でんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、梶原ひかり、渡辺哲他

2011年1月29日〜 テアトル新宿、京成ローザ10、
2月5日〜シネリーブル梅田、京都シネマ、シネリーブル神戸にて公開
公式サイト⇒ http://www.coldfish.jp/
 『愛のむきだし』で4時間にわたる究極の純愛を表現した園子温監督の最新作は、暴力が支配する猟奇的な世界を圧倒的なパワーで描いている。時にはコミカルに、時にはシュールに繰り広げられるR−18のバイオレンスエンターテイメントは、喜劇とも悲劇とも映るだろう。
 冒頭から主人公・社本(吹越満)の再婚妻・妙子(神楽坂恵)がスーパーの冷凍食品をまたたくスピードで買いあさり、娘の美津子(梶原ひかり)と3人でそれらを温めただけの夕食がまたたく間に映し出される。崩壊寸前家族の不吉な行方を暗示する食卓のあとは、シーンごとに刻まれる時刻がまさに破滅へのカウントダウンなのだ。
 美津子の不祥事を助けられたことで知り合った村田という一見親切そうな男が連続殺人犯だと分かったときから、社本の人生の歯車は大きく狂いはじめる。自分に絶対的自信を持つ人間はかくも強いものか。村田演じるでんでんの凄まじい迫力や、畳みかけるように相手の弱点を突く人心操縦術にゾクッとさせられた。社本が妻愛子(黒沢あすか)と「ボディーを透明にする」作業は血まみれで猟奇的なシーンのはずなのに、究極の恐怖に襲われた社本と、夫婦漫才のような息の合ったテンポでボディーを切り刻む村田夫妻の対比がむしろブラックな笑いを誘う。
 村田にさんざん挑発され、追い詰められた極限状態での社本の“目覚め”は、本作の中で一番衝撃的なシーンだ。『冷たい熱帯魚』というタイトルの相反したニュアンスそのままに、一人の人間の中に潜んでいた相反する感情、今まで理性で抑えつけていた憤り、性欲、殺意、それらが露わになったとき、新たな悲劇の幕が開く。
 ラスト30分は壮絶な血まみれエンターテイメントだが、皮肉なことにその中ではじめて登場人物たちは自分たちの本音を叫ぶのだ。人の中の“闇”や“欲望”を引きずり出した作品と言ってもいい。まざまざと見せつけられる性欲や容赦ない殺人、人間の営みのドロドロとした世界をたっぷり観たにもかかわらず、爽快感やガツンとした手ごたえが残ったのは、園子温監督や出演者たちが狂気の世界を徹底的なエンターテイメントにして描こうとした熱意とパワーに飲み込まれたからだろう。そして、吹越満演じる社本が抱えていた心の闇や、最後に娘に言った壮絶な叫びは、観る者の心にぐさりと突き刺さるのだ。
(江口 由美)ページトップへ
   
             
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