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★最後の忠臣蔵 |
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『最後の忠臣蔵』
〜忠臣蔵の“感動”は健在だった〜
(2010年 日本 2時間13分)
監督:杉田成道
出演:役所広司、佐藤浩市、桜庭ななみ、安田成美、山本耕史、
伊武雅刀、片岡仁左衛門
2010年12月18日(土)〜梅田ピカデリー、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、 神戸国際松竹、MOVIX京都 他全国ロードショー
・舞台挨拶レポートは→こちら
・公式サイト⇒ http://wwws.warnerbros.co.jp/chushingura/ |
忠臣蔵の“感動”は健在だった。杉田成道監督の「最後の忠臣蔵」は秋の時代劇ラッシュをしめくくるにふさわしい本格的「忠臣蔵」である。1995年、“映画100年記念”として東宝で「四十七人の刺客」(市川崑監督)と松竹「忠臣蔵外伝四谷怪談」(深作欣二監督)が作られた。いかにも日本映画らしい記念の“競作”だった。「四十七人
〜 」は池宮彰一郎氏の原作。「最後の忠臣蔵」は同じ池宮原作で“討ち入りその後”を描いた25年後の続編にあたる。いわばスピンオフである。 |
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ご存知の通り、忠臣蔵は大石内蔵助ら赤穂浪士が艱難辛苦の末、吉良邸に討ち入り本懐を遂げる物語で、「四十七人の刺客」は新たな視点とはいえ基本は外していなかった。だが「最後の忠臣蔵」は討ち入りが冒頭にあり、その直後、浪士のひとり寺坂吉右衛門(佐藤浩市)が大石に呼ばれ、密命を受ける。それは討ち入りの真意、真相を世に知らしめ、浪士たちの家族ら困窮している者たちを救うという困難な使命。言い付け通り全国を回って役目を終えた寺坂は、京で瀬尾孫左衛門(役所広司)と出会う。四十七士の友人だった彼は討ち入り前夜、脱盟して行方をくらました“卑怯者”だった…。 |
忠臣蔵は復讐の本懐を遂げて切腹する美談として多くの日本人の心をとらえてきたわけだが、今作では討ち入り=切腹という美学を禁じられた2人の男の後日談。美談の上にさらに苦難を加えることによってより悲劇性を強調したものと言える。これまで、テレビドラマも含めて数多い赤穂浪士譚の中でもまったくなかった話で、その斬新さだけでも多くの日本人の心に強く訴えることは間違いない。
瀬尾は寺坂より早く、討ち入り前夜に大石から密命を受けていた。大石には愛人がいて、討ち入り直後に赤ん坊誕生。これは“前作”「四十七人の刺客」で描かれた通り。瀬尾はその子を守り育てるよう大石から命じられていたのだ。16年後、隠し子は匂いたつような美しい娘(桜庭ななみ)に育ち、瀬尾は娘・可音(かね)を嫁がせるべく心砕くが、可音は赤ん坊の頃から親身に世話し、すべてを教えてくれた孫左衛門に秘かに思いを寄せていた…。 |
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瀬尾は可音の育成に協力してもらった元遊女(安田成美)の同居の誘いも固辞し、可音を嫁がせて役目を終えた夜、割腹して果てる。このあまりにもストイックな武士の生きざま。時代劇は現代劇以上に虚構と知っていても、こんな生き方は出来ない、と分かっていても、やはり感心して感動してしまう。これが瀬尾の16年遅れの忠臣蔵だったのだから。 |
テレビ(「北の国から」ほか)出身の杉田が格調高い時代劇に仕上げたことに驚嘆。忠臣蔵は古い話だが、アイデア次第で目新しくなる、という見本。現代では“忠臣”なんて流行らない。短気な主君のために家来が敵討ちし切腹するなんて、そんなアホな、なのだが、このある種ファンタジーのような忠臣蔵が歌舞伎から数えて400年以上、映画としても草創期の明治40年代から登場し約100年、時代の変遷を超えて庶民の心をとらえてきたのは不思議なこととしか言いようがない。
文学者・丸谷才一は「忠臣蔵とは何か」でその秘密を解き明かそうとしたが、1冊を費やしても人気の秘密はしかとは分からないまま。苦労を重ねた上の復讐物語、祖先崇拝思想、権力(幕府)への命を賭けた異議申し立て、藩士を束ねるリーダー大石の指導物語、世をたばかって事を謀る浪士たちの秘密性…それらのすべてが日本人の好みにマッチしているのだろう。なぜかくも忠君愛国思想がもてはやされるのか。この思想が日本の軍国主義→太平洋戦争→敗戦の悲劇へとつながっていったことも間違いないのだが…。
この究極の侍美学映画「最後の忠臣蔵」が12月18日、日本映画としては3本目となる日米同時公開されるのは歴史の皮肉か、必然の流れか。アメリカ人の目にこの日本人の美学がどう映るのか、きわめて興味深い。 |
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『最後の忠臣蔵』
〜京都の映画黄金期の輝き、再び〜
(2010年 日本 2時間13分)
監督:杉田成道
出演:役所広司、佐藤浩市、桜庭ななみ、安田成美、山本耕史、
伊武雅刀、片岡仁左衛門 2010年12月18日(土)〜梅田ピカデリー、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、
神戸国際松竹、MOVIX京都 他全国ロードショー ・日米同時公開のニュース→こちら
・舞台挨拶レポートは→こちら
・公式サイト⇒ http://wwws.warnerbros.co.jp/chushingura/ |
日本映画界は企画の行き詰まりからか時代劇の製作が相次ぐ。中でも京都で撮影された本作は、撮影所全盛期をしのばせる品格で群を抜く。
討ち入りに加わらず、大石内蔵助の密命で生き残った瀬尾孫左衛門(役所広司)と寺坂吉右衛門(佐藤浩市)の秘話。杉田成道監督と脚本家の田中陽造が、原作から孫左衛門と内蔵助の隠し子、可音(桜庭ななみ)の忍ぶ恋に焦点を当てた。
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可音を四十七士の名誉が回復する日まで守り抜く。それが、内蔵助から孫左衛門への密命だった。隠れ家で孫左衛門に育てられ、年頃になった可音。胸のうちを言えず「昔のように隣に座って食事してくれぬ」と、駄々をこねる姿が挑発的で、男やもめの孫左衛門のにぶさがじれったい。やがて可音の縁談が決まり、別れが近づく…。2人の心情が文楽で表現され、近松物を観るような、情感の高まりがゆったりと押し寄せる。 |
吉右衛門は盟友、孫左衛門を探し当て事情を知り、可音の輿入れに同志と馳せ参じる。内蔵助の姿が娘に重なり演じた片岡仁左衛門の存在感が際立つ。心憎い演出だ。フィルムでなければ出せない画の陰影と温かみ。美術監督の西岡善信が、柱や床の木目、かまどと火加減まで本物で作り上げたセット。旧大映作品をほうふつとさせる美学に酔いしれたい。 |
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