愛する者への疑惑・不信、これらがどれほど妄想を膨らませ、焦燥と恐怖で正常な判断を狂わせていくことになるか・・・シェークスピアの『オセロ』でも、オセロがイアーゴの奸計にのせられて貞淑な妻・デズデモーナを殺害してしまうという悲劇の顛末にもあるように、愛するが故にその猜疑心は高まるばかりで我を失うことになる。それにしても、決して夫もしくは恋人の携帯は見ないように・・・それは不幸への始まり・・・。
産婦人科医のキャサリンは、大学教授の夫デビッドと大学生の一人息子とトロント郊外でハイソな邸宅に暮らし、人も羨む生活を送っていた。だが、夫の誕生日にサプライズパーティを準備して待っていたが、夫は帰宅せず、そこから夫の行動に疑念を抱くようになる。ある日、レストランの化粧室で泣いていた高級娼婦クロエと知り合い、彼女に夫を誘惑させ、夫の反応及び行動を逐一報告するよう依頼する。次第にエスカレートしていく二人の逢瀬に、キャサリンは妙な高揚感を覚え、クロエとの関係も思わぬ方向へとショートしていってしまう。
アマンダ・セイフライドは、『マンマ・ミーア!』でメリル・ストリープの娘役で世界的な注目を浴び、『ジュリエットからの手紙』ではヴァネッサ・レッドグレーブと、『赤ずきん』ではジュリー・クリスティの孫娘役を、そして本作ではジュリアン・ムーアという超エキセントリックな女優を相手に体当たりの演技で魅せている。作品毎に大女優と共演できるとはとてもラッキーなことだが、比較されるのも避けられないことである。特に、情愛を通じた後のサイコチックな展開では『危険な情事』(‘87)のグレン・クローズを思い出すが、彼女ほどの迫力には欠ける。やはり、キュート過ぎるアマンダの魅力のせいだろうか。
それに対し、『エデンより彼方に』『美しすぎる母』『シングルマン』『キッズ・オール・ライト』など、数々の煩悩多き役で存在感を示してきたジュリアン・ムーアは、最も信頼できる性格俳優と言えるだろう。年齢と共に揺らぐ夫への信頼と女としての焦燥感を、見ていて胸が苦しくなるほど繊細に表現していた。
だが、本作は単に夫の不貞を疑って嫉妬に燃える妻の危険な関係だけを描いている訳ではない。自分の思惑通りに他者をコントロールしようとしてそのしっぺ返しを受けるという、人の傲慢さが生んだ人間関係の危険性こそがテーマと言えるだろう。それをサスペンス映画として見事に成功させたアトム・エゴヤン監督の、深層心理を鋭いタッチで映像化した手腕は、さすがだ。 |