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★ブンミおじさんの森
『ブンミおじさんの森 』
(Uncle Boonmee who can recall his past lives)
〜生も死も溶け合った世界の不思議な魅力〜

(2010年 イギリス、タイ、ドイツ、フランス、スペイン 1時間54分)
製作・監督・脚本:アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演:タナパット・サーイセイマー、ジェンチラー・ポンパス、サックダー・ケァウブアディー

2011年 3月12日〜梅田ガーデンシネマ、順次、京都シネマ公開予定
公式サイト⇒  http://uncle-boonmee.com/
 2010年カンヌ国際映画祭でのパルムドール受賞に際し、ティム・バートン審査委員長が「この映画には、私が見たこともないファンタジーがあった。それは美しく、まるで不思議な夢をみているようだった」と語ったとおり、見終わって、美しく神秘的な世界にさまよいこんだ気持ちになり、深い余韻が残る。
 映画の冒頭、夜明け前の稲田に現れた水牛のただならぬ存在感に驚かされる。薄暗闇の中、荒い息がここまで聞こえてきそうだ。観ているうちに、私が水牛になったのか、水牛が私になったのか、そんな気にさえなる。この水牛に引き寄せられるようにして私たちは、タイ東北部の深遠な森の世界に引き込まれてゆく。
 病気で死を間近に感じたブンミおじさんは、義妹や甥を自分の農園に呼び寄せる。食事しているテーブルに亡き妻が幽霊となって現れる。生きている時と変わりなく、普通の人間の姿の妻を、ブンミおじさんは驚くことなく受け入れ、普通の日常の会話を交わす。行方の知れなかった息子も猿の精霊の姿となって現れ、皆で森の中へと入っていく…。
 輪廻転生がテーマの一つ。この世に生を受けたものは人間も動物も、虫や鳥も草木も皆つながっているという、アジアの自然観が脈々と流れている。灯に群がる虫、水の中をうごめくナマズ、美しい王女と、さまざまなイメージの中を浮遊していく。人間、動物、植物を隔てることなく、生死の境界をもこえた、生命の果てしないつながりを感じると同時に、風の音、虫の音、鳥の声、木々のざわめきと、繊細な音に包まれ、心地よい。ブンミおじさんが森の中で透析を受けたり、ファンタジーとリアリティの混ざり具合もいい。
 死は生と隣り合う身近なもので、決して生の終わりではなく、恐れるものではないということを、ブンミおじさんは教えてくれる。物語を追おうとするのでなく、映画から聞こえてくる音に耳をすませ、映像の美しさに身をまかせてほしい。きっと、あなたの心に沈殿していく何かを感じるはずだ。
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