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 ブリューゲルの動く絵

(C) 2010, Angelus Silesius, TVP S.A
『ブリューゲルの動く絵』 (THE MILL & THE CROSS)
〜解き明かそう! 絵の中の真実を〜

(2011年 ポーランド・スウェーデン 1時間36分)
監督・製作:レフ・マイェフスキ
出演:ルトガー・ハウアー、シャーロット・ランプリング、
    マイケル・ヨーク

2011年12月17日(土)〜渋谷ユーロスペース他全国順次公開
2012年1月28日(土)〜シネ・ヌーヴォ、第七藝術劇場、
2月〜京都シネマ、3月3日(土)〜神戸アートビレッジセンター
にて公開
公式サイト⇒ http://www.bruegel-ugokue.com/
 16世紀フランドルの画家ピーテル・ブリューゲルの『十字架を担うキリスト』という絵をご存じだろうか? 10年前ウィーン美術史美術館のブリューゲルの部屋へ行ったことがあるが、『バベルの塔』に夢中で、その隣に展示されていた『十字架を担うキリスト』の記憶が全くない。皮肉にも本作はそのあまり有名でない絵が主役なのだ。ブリューゲルは、ゴルゴタの丘へ連行されるキリスト受難の様子を、時代をエルサレムからスペインの圧政下にあった16世紀のフランドル地方(現在のオランダ南部からベルギー西部)に置き換えて描いている。そして、映画は、絵の中の人々のそれまでの生活や足跡を、まるで絵の中に実際に入り込んで覗き見しているような感覚で捉えている。まさにバーチャル映画!







 とはいえ、絵の中の人物がちょこまかと動くCG映画ではない。監督は『バスキア』(ジュリアン・シュナーベル監督)の原案・脚本を手がけたほか、アート界でも活躍するポーランドの鬼才レフ・マイェフスキ。主演は、40代半ばで死去したブリューゲルよりかなり老けてはいるが、その容姿が似ているとの理由で起用された『ブレードランナー』のルトガー・ハウアー。また聖母マリア役にシャーロット・ランプリング(『まぼろし』、『メランコリア』)、ブリューゲルのコレクター:ヨンゲリンク役にマイケル・ヨーク(『三銃士』『キャバレー』)と、摩訶不思議な絵画の中の人物同様、時代の重みを感じさせる風格あるキャスティングも魅力のひとつ。

 早朝、一人の農夫が起きて朝の支度に取り掛かる。長い長い階段に導かれるように巨大な滑車とそれに続く山の頂に据え付けられた巨大な風車が動き出す。まるで人間の営みを俯瞰しているような存在感がある。この絵の不思議な点は、テーマであるキリストがなぜか小さく描かれ、それとは対照的に手前に嘆き悲しむ聖母マリアが一際大きく描かれていたり、赤い服を着た兵士たちが何やら人々を急き立てているように見えたり、あちらこちらに点在するてっぺんに車輪のようなものを頂く柱など、謎めいた描写が多いことだ。それらの謎を解き明かすように、絵の中の人々の足跡をたどる旅ができるのだから、一種のミステリーツアーともいえる面白さがこの映画にはある。

 フランドル絵画は、当時の風俗や世情を反映した寓意的なテーマを緻密な筆致で描写しているのが特徴といえる。ブリューゲルより以前に活躍したヒエロニムス・ボスという画家は、近未来を思わせるような造形美で聖書に基づく寓話を描いていることで有名。彼の大ファンだったのが当時フランドル地方を支配していたスペイン国王フェリペ2世だった。現存するボスの作品の多くがプラド美術館にあり、それらが革新的で謎めいた描写が特徴の20世紀シュルレアリスムに影響を及ぼしていくのも頷けるというもの。冷徹なフェリペ2世が厳格なカトリック教とは異質の絵画を密かに愉しんでいたというから、その魅力は推して知るべし。その作風はピーテル・ブリューゲルにも継承され、今まさに摩訶不思議の世界へと私たちを誘おうとしている。さあ、絵の中へ!

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