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『ブレイクアウト』 (Trespass)
〜時代を映す「幸せ家庭と強盗」映画〜

(2011年 アメリカ 1時間31分)
監督:ジョエル・シューマカー
出演:ニコラス・ケイジ、ニコール・キッドマン

2012年6月23日(土)〜新宿バルト9 他全国ロードショー
公式サイト⇒http://breakout-movie.com/

 家族3人が平和に幸せに暮らす家庭を、情け無用の強盗が襲う…これまでにこの手の映画は何度も見た。「また…」の思いは隠せなかったが、そこは娯楽作に社会派の切り口を見せるジョエル・シューマカー監督、幸せ家庭にも強盗一味にも現代社会の複雑な様相が見て取れた。ニコラス・ケイジ、ニコール・キッドマンの競演がサスペンスと謎を盛り上げて最後まで引き付ける。

 ダイヤ・ディーラーのカイル(ケイジ)は妻のサラ(キッドマン)、娘のエイヴリー(リアナ・リベラト)と何不自由ない3人暮らし。反抗期の娘が両親の反対を振り切って「友達とパーティー」に出かけて家族のほころびを垣間見せたところへ、警官の制服を着た男ら強盗4人が押し入ってくる。彼らはカイルの仕事を熟知し、大金と大量のダイヤがある、と確信していた…。

 ありきたりの出だしだが途中から家族の亀裂、強盗一味の仲間割れと、意外な展開に引きずり込んで、シューマカー監督の面目躍如。一味はサラを脅し、カイルに「金庫を開けろ。金を出せ」と迫る。だが、カイルは銃を突き付けられながらもきっぱりと拒絶する。ありゃ? なんで?

 二大スターの迫真かつ絶妙の演技が圧倒的。カイルは腕利きセールスマンとして強盗相手に必死の駆け引き。サラは強盗一味の中に「防犯器具を取り付けに来た青年」がいると気づく。彼にはカイルの留守中、誘惑されかけたのだった。カイルはそれを知っているのか?
 
 “強盗映画”にもアメリカ映画の伝統が息づいている。ウィリアム・ワイラー監督の名作「必死の逃亡者」(55年)は平凡な家庭に3人の脱獄囚が押し入るサスペンス映画で、悪らつな強盗(ハンフリー・ボガート)一味を相手に、家族を守る父親(フレドリック・マーチ)の断固とした姿勢が際立った。古き良き時代の強いアメリカ映画だった。90年のマイケル・チミノ監督のリメイク作品は趣が違った。女性弁護士の手助けで脱獄した囚人たちが一家4人を人質に取り、女弁護士の到着を待つ物語。父親役のアンソニー・ホプキンスはこれでアカデミー賞を受賞したが、父親よりもミッキー・ロークの強盗が目立った。米社会の家庭は陰が薄らいでいた。
 
 1996年、ハリソン・フォード主演の「逃亡者」はTVシリーズの映画化だが、ここでは家庭など眼中になく、逃げるリチャード・キンブル(フォード)と追うジェラード捜査官(トミー・リー・ジョーンズ)の対決が何よりの見もの。チャールズ・ブロンソンの「狼よさらば」(74年)では、町のごろつきに一家を惨殺された主(ブロンソン)が“街のダニ”一掃に立ち上がる、きな臭い世相がありあり。時代下って02年の「パニック・ルーム」(デヴィッド・フィンチャー監督)では、3人組の強盗が押し入ると、住人(ジョディ・フォスター)は隠し部屋「パニック・ルーム」に駆け込む。外敵からシャットアウトすることで家族を守った。
 
 「ブレイクアウト」の夫婦は浮気の事実が本当かどうか、信頼感に危機が訪れ、娘はこっそり外出。一方、犯人側も、麻薬売買のミスから犯行を企てたボス格の男と、手下の兄弟の対立があり、どちらも問題を引きずったまま。で、カイルが金庫を開けないのはなぜか。「開けたらみんな殺される」とカイルは言うが、実際は豪邸を建てた彼にはもう金は残っていなかった…。格好は付けているものの、金庫には金もダイヤも空っぽ、というのは一向に景気が浮上しないアメリカの現実の姿ではないか。
 
 帰って来た娘の命だけは、と頑強に抵抗するサラ、サラといわくありげな強盗、家族への愛を証明出来ないカイル…。家族3人の思惑と強盗一味の“敵対”関係に複雑微妙な現代の影が差す。

(安永 五郎) ページトップへ

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