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 『ボローニャの夕暮れ』
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★ボローニャの夕暮れ

(C) 2008: DUEA FILM - MEDUSA FILM
『ボローニャの夕暮れ』 原題:Il papa di Giovanna
〜家族を信じ、待ち続けた父の愛〜

(2008年 イタリア 1時間44分)
監督・脚本・原案:プーピ・アヴァーティ
出演:シルヴィオ・オルランド、フランチェスカ・ネリ、アルバ・ロルヴァケル

7月31日〜テアトル梅田、8月28日〜シネリーブル神戸、
6月26日から公開中(東京)渋谷ユーロスペース、銀座シネパトス

公式サイト⇒ http://www.alcine-terran.com/bologna/
  

 セピア色の陰影に富んだ画面に展開するのは、第2次世界大戦期、ファシズムの台頭するイタリア、ボローニャを舞台にした一つの家族の歴史。ばらばらになっても、家族の絆を信じ、待ち続ける父の深い愛が、家族を再生へと導く。

 ミケーレは高校の美術教師。17歳の娘ジョヴァンナと妻デリアとつつましく幸せに暮らしていたが、あるとき、内気で繊細すぎるジョヴァンナが、同級生を殺害した容疑で身柄を拘束されてしまう。ミケーレは娘を信じ、献身的に支え続けるが、デリアは、娘とうまくコミュニケーションできないまま、二人の距離は遠ざかるばかりに…。

  温厚な夫と美しい妻、一人娘と、一見穏やかで平和そうな家族も、それぞれ胸の内にわだかまりを抱えていることが冒頭からさりげなく描かれる。思春期の娘ジョヴァンナは、母の美しさに強い羨望を抱くと同時に劣等感にさいなまれている。ミケーレは娘をあるがままに溺愛。デリアは、そんな二人をうまく愛することができず、疎外感を感じたまま、ミケーレの親友セルジュのことをひそかに想っている。
 そんな家族に対する、ミケーレの揺るぎない愛情、深い信頼と寛大さに心温かくなる。そもそもミケーレが娘のことを心配し、よかれと思ってしたことが、かえって娘の心を一層不安定にし、苦しめることになった。娘を思うばかりに招いてしまった不幸。その罪悪感と責任感もまたミケーレの原動力となる。デリアと離れてもなお一人、足繁く、精神を病んだ娘に会いに行き、懸命に心を通わせようとする姿が淡々と描かれ、胸に迫る。
 拘禁された娘に会うことを拒んでしまうデリアの孤独な胸の内は、ほとんど描かれず、その心中は謎に包まれたままで、不思議な余韻を生む。慈愛に満ちた深い眼差しで、家族を見つめるデリアの表情が心に残る。

  とりかえしのつかない不幸を起こしてしまっても、無邪気で屈託のないジョヴァンナの表情は、童女のようで可愛いらしい。母の美しさへの羨望とは裏返しに、母親の愛情を強く求める一途さが、母の手袋をもらい、長い手足で嬉しそうに踊りまわる姿からあふれる。若手女優アルバ・ロルヴァケルの、リアルで繊細な演技に引き込まれる。

  ムッソリーニ率いるファシスト党が民衆の圧倒的支持を得て勢力を増すものの、敗戦により一転、今度は容赦なく処刑される。戦争に翻弄される庶民の姿も丁寧に描きこまれ、時代の空気が伝わる。原題は「ジョヴァンナのパパ」。平凡な家族の崩壊と再生の物語を紡ぎ、イタリアで大ヒットした。「愛は強要できない」と言うミケーレ。その言葉に込められた思いの深さは、地道に、でも決して諦めず、待ち続ける寛容な精神にこそ、人を変える力があることを教えてくれる。  
(伊藤 久美子)ページトップへ
   
             
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