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★バビロンの陽光

(C)2010 Human Film, Iraq Al-Rafidain, UK Film Council, CRM-114
『バビロンの陽光』 (Son of Babylon)
〜悲惨な現実を見つめる勇気〜

(2010年 イラク・イギリス・フランス・オランダ・パレスチナ・UAE・エジプト合作 1時間30分)
監督:モハメド・アルダラジー
出演:ヤッセル・タリーブ、シャーザード・フセイン、バシール・アルマジド

2011年6月4日(土)〜シネスイッチ銀座 他全国順次公開
6月25日(土)〜梅田ガーデンシネマ、シネリーブル神戸、
(公開時期未定)京都シネマ
公式サイト⇒ http://babylon-movie.com/
 無理やり出兵させられた父を探して旅するクルド人の少年と祖母の姿をとおして、今イラクが向き合っている悲惨な現実について静かに問いかける。
 フセイン政権が崩壊した2003年、12歳の少年アーメッドは、祖母とともに、12年も前に戦争に行ったまま帰ってこない父を探しに出る。冒頭、荒涼とした砂漠のような大地をふらつきながら歩く二人。900キロ以上もの道中、トラックに乗せてもらったり、バスを乗り継いでの旅が始まる。
 バグダットのバス停では、待ち時間に、物売りの少年が苦労しているのを見かねて、アーメッドが手伝いにいく。居眠りして孫の姿を見失った祖母は、まわりの人に尋ねるが、アラブ語ばかりで、クルド語しかしゃべれない祖母は途方にくれる。運よく、アーメッドの姿を見つけ、そばから離れないという約束を破ったと責める。でも、今度は、この物売りの少年が、バスに乗りそこねてアーメッドと別れかけた祖母のために、バスを追いかけて止め、運転手に談判して祖母を乗せるくだりがすてきだ。子ども同士だって、苦しい時だからこそ、自然と互いに手をさしのべあう姿が微笑ましい。
 バスの車内で出会い、何かと二人の面倒をみる男ムサ。かつてクルド人の村での虐殺に加担したと正直に打ち明けて、祖母からは拒絶されるが、アーメッドとの仲の良さは変わらない。「過去の過ちは許すよう」祖母から教えられたというアーメッドの言葉に、今度は祖母が教えられる。罪の意識に悩みながらも手を差し伸べずにはいられないと、親身になって世話しようとするムサの懸命な思いが痛々しい。
 父の生死さえわからず、二人は集団墓地を訪ねて歩くことになる。掘り起こされて白骨化した遺体を前に、黒のアバヤ(女性が羽織る外套)に身を包み、さめざめと泣き悲しむ女性たちの泣き声が響き、悲痛な光景が広がる。祖母もまた、旅の疲れから見知らぬ頭蓋骨を息子と思い込み、優しく撫でては、泣きながら語りかける。祖母を演じた役者は、実際に家族を戦争で失い、遺体を探し歩いたといい、その表情に胸打たれる。祖母と言葉は通じなくても、心は通じ合いわかりあえたとアラブ語で話す女性が現れ、ここでもまた、身内を探し見つからぬ悲しみを同じくする者同士の優しさが描かれる。
 祖母の一途な愛と、旅で出会った人々の寄せる暖かな愛に守られて、アーメッドが強く成長していく姿が頼もしい。祖母を励まし慰め、埃で汚れた顔をぬぐってあげるアーメッド。兵士ではなく、父がなりたがっていた音楽家になりたいと考えを変える。その横顔は、涙に濡れていても、きっとどんな人生の荒波をも越えていけると思えるほど、力強く迫ってくる。
 映画を通じて明らかになるのは、イラクで起きた悲惨な歴史。過去40年間で150万人以上もの人が行方不明となり、300の集団墓地から何十万もの身元不明の遺体が発見されているという。直視するに堪えられない悲痛な現実をあえて見据え、映画として完成させた監督の勇気は、イラクの人々が未来に向かって新しく踏み出す1歩へとつながるはずだ。
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