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★バード★シット

(C) 1970Turner Entertainment co.
『バード★シット』
〜青春の狂気と繊細さが炸裂〜

(1970年 アメリカ 1時間45分)
監督:ロバート・アルトマン
出演:バッド・コート、サリー・ケラーマン、シェリー・デュヴァル、ステイシー・キーチ

2010年9月11日(土)〜シネ・ヌーヴォにて公開中
(9/25(土)からはシネ・ヌーヴォX)
10/16〜京都みなみ会館、
(上映時期未定) 神戸アートビレッジセンター

公式サイト⇒  http://sky-way.jp/ziggy/
 映画は、その時代をうつしだすという。70年代がどんな時代だったのか、アメリカの“ニューシネマ”について何も知らなくても、今回、1970年代アメリカ映画伝説と銘打ち、上映される本作『バード★シット』(70)と『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』(71)の2本を観たら、きっと、現代にも共通する、70年代の新しい風を感じたような気持ちになり、元気になること間違いなしだ。

  このリバイバルロードショーされる2本をスクリーンで観ることができる幸せに、大阪九条のシネ・ヌーヴォでは公開初日、満席でお客さんが入りきらない回もあったとか。今まで語りつがれてきた名画がフィルムで甦るのを待ちわびた人がこんなにもいたという嬉しい知らせ。私自身もスクリーンで実感し、喜びを禁じえない。

  さて、この2本、あまりに違う作風に驚かれるかもしれない。でも、どこか共通するものがある。青春のもろさ、あやうさ、エネルギーにあふれ、熱い体温が伝わってくる。この2本を選びだした選択眼は見事だ。主演はどちらも童顔のバッド・コート。『ハロルドとモード〜』は、自殺願望の少年ハロルドが老女モードに出会い、生きることの輝きを取り戻していく大傑作。このモードの破天荒ぶりのさらに上をいくのが、本作。
 予告編でさわやかな青春映画を思い描いていた私は、観終わって、正直、面食らった。わけがわからない…。鳥の生態について語る博士をはじめ、どの登場人物もどこか変わっていて、でも、強烈にひきつける魅力にあふれている。
 肉体を鍛え、人工翼の装置を自前で作り出し、空を飛ぶための準備を進める少年ブルースター。原題の『BREWSTER McCLOUD』は彼の名前だ。アメリカ南部、ヒューストンの屋内野球場の地下に自前の工房があるという設定がおもしろい。鳥になって空を飛ぶというブルースターの夢の実現を阻もうとする大人たちは次々と殺され、その死体には必ず鳥のフン(バード・シット)が張り付いていた…、という奇想天外なお話。

  ブルースターを窮地から救う、守護天使のような謎の美女の微笑みに吸い寄せられる。クライマックス、ブルースターは、彼女の言葉に逆らって“本当の恋”を手にしようとし、守護天使の見えない檻から飛び出す…。自分自身の肉体を駆使して、少年がドームの中を飛ぶシーンの美しいこと。宙を飛んでいる時の少年の、不安そうな、でも、歓びではちきれそうな表情は忘れられない。少年の可笑しくも哀しい夢に、どこか私自身の夢を重ねあわせたくもなる。それだけに驚愕のラストには絶句するしかないが、悲しみを滑稽さで包み込もうとする監督の技量にこれまた驚かされる。

 アルトマン監督のブラック・ユーモアが満載。人類史上初めて空を飛んだライト兄弟の兄が、好色で強欲な守銭奴になっていたり、警官はブルースターをカツアゲしようとするし、連続殺人事件の解決のためにやってきた敏腕刑事もあっけない最期を遂げる。監督得意の狂気と笑いに満ちた世界が疾走する。激しいカーチェイスもその魅力の一つ。車がまるで生き物のようにみえ、なかでも美女の乗った赤い車からは目が離せない。ライト老人の乗る車椅子が坂道を暴走し、回り中で衝突事故が起こるシーンもユニークだ。

  本作について、当時、アルトマン監督は「この時期の一番のお気に入り」と答えていたそうだ。関西では、この2本を連続して観ることができる。『バード★シット』、『ハロルドとモード〜』の順をお薦めしたいが、ぜひ劇場で、驚きと発見に満ち、ちょっと風変わりですてきな世界に浸ってほしい。
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