50年以上前からパスタ工場を営むカントーネ家の人々を巡るヒューマン・コメディだ。イタリア南東部のサレント半島にある都市レッチェが舞台となる。工場経営の代替わりに向けて共同経営者との夕食会が開かれることになっていた。ローマから帰郷したトンマーゾは,その席上で重大な告白をしようと考えている。だが,兄アントニオが先にカミングアウトしたため,仕方なく共同経営者の娘アルバと共に工場の経営に携わることになった。
兄弟とも自分の本当の姿を隠し続けて生きてきた。父は,ゲイを受け入れられず,体面を気にしながら生きている。父親なら理解すべきよ,遅れているのはあなたの頭よ,と祖母に言われる。祖母は,夫の弟を愛し続けており,叶わない愛は終わらないとアルバに話す。アルバは,孤独に生きてきたが,トンマーゾがゲイであることを知りながら淡い恋心を抱いている。周囲との調和を保ちながら自分の心に素直に生きるのは,なかなか難しい。
母は,トンマーゾの言葉から彼も同性愛であることに気付く。姉は,ゲイだと告白したトンマーゾに前から気付いていたと言う。何も気付かない父に,自分のことしか考えない兄,そしてトンマーゾも今一歩を踏み出せない。男性陣に比べて女性陣はタフだ。25年前ロンドンに駆け落ちして相手の男に捨てられたという叔母も,メソメソしない。何と言っても,物語の柱となる祖母の存在が際立っている。彼女は,最後に思い切ったことをする。
食卓を囲む家族のすぐ近くを舞うように動くカメラは,親子や兄弟の心の揺れを伝えているようだ。「50mila」(5万粒の涙)という曲がテーマソングのように使われるなど,音楽がメリハリを生み出す。ウエディングドレス姿の若い日の祖母の回想シーンがミステリアスに物語を繋いでいく。祖母の幻影がトンマーゾに「自分の幸せを考えなさい」と語りかける。そして,若い日の彼女に導かれて大団円となるダンスシーンでは幸せ気分に包まれる。
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