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  『4月の涙』
  河田充規バージョン
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★4月の涙 (河田充規バージョン)
『4月の涙』 (KASKY/TEARS OF APRIL )
〜遂げられなかった思いと遂げられた思い〜

(2009年 フィンランド,ドイツ,ギリシャ 1時間54分)
監督:アク・ロウヒミエス
出演:サムリ・ヴァウラモ,ピヒラ・ヴィータラ,エーロ・アホ

2011年5月7日(土)〜シネマート新宿,銀座シネパトスほか全国順次公開
関西では、6月4日(土) 〜シネマート心斎橋、
       6月〜元町映画館、7月〜京都シネマ

公式サイト⇒ http://www.alcine-terran.com/namida/

 フィンランドは,1917年12月6日ロシアからの独立を宣言したが,1918年1月28日赤衛軍がヘルシンキを占領して内戦が勃発した。その後,白衛軍が4月13日ヘルシンキを奪還し,5月16日勝利宣言を行った。これがフィンランド内戦で,4月末ころは白衛軍が敗走する赤衛軍を追い詰めていた。このような背景の下,赤衛軍の女性兵士ミーナ,白衛軍の准士官アーロ,作家で人文主義者の判事エーミルの3人それぞれの心情があぶり出される。

 ミーナは,自らの信念に従って行動する真っ直ぐな女性だ。生きようとする強い意思を持っているが,信念を曲げてまで生きようとはしない。判事の前で「ミーナ・マローン」と自分の名前を言い張るシーンにそれが最もよく表れている。アーロは,混沌とした状況の中でも正義を貫く姿勢を保ち続ける。その優しさがミーナを救い,その知性がエーミルを引き付ける。ただ,逞しさに欠ける。無人島ではミーナがいたから生き延びたといえる。

 この2人にエーミルが絡むことによって生まれる三角関係は,決して単純なものではない。何しろ,エーミルの心は屈折していて退廃的だ。人を殺しすぎて,血に汚れた自分にイヤになっている。妻ベーアとの結婚記念日のシーンでは,ベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章が流れる。親が子供の葬儀でよく流す曲だなどというエーミルの話しぶりには死の匂いが漂う。彼の妻がアーロを誘惑し,音楽が高鳴り,隣の部屋にはエーミルがいる。

  それは,エーミルにとって苦痛だったはずだ。だが,その意味合いが通常とは異なっている。そのとき,彼は自らの逃れられない運命を痛感していたに違いない。ヘルシンキの上層部にとって,自分は単なる殺人マシーンにすぎない。生きることに対する苦悶が浮かび上がる。その姿は,彼を性的に誘惑してでも生き延びようとしたミーナとは対照的だ。エーミルは,アーロがミーナを助けると信じたからこそ,彼に銃を渡したのかも知れない。
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★4月の涙 (安永五郎バージョン)
『4月の涙』 (KASKY/TEARS OF APRIL )
〜無惨な歴史をどう乗り超えたのか?〜

(2009年 フィンランド,ドイツ,ギリシャ 1時間54分)
監督:アク・ロウヒミエス
出演:サムリ・ヴァウラモ,ピヒラ・ヴィータラ,エーロ・アホ

2011年5月7日(土)〜シネマート新宿,銀座シネパトスほか全国順次公開
関西では、6月4日(土) 〜シネマート心斎橋、
       6月〜元町映画館、7月〜京都シネマ

公式サイト⇒ http://www.alcine-terran.com/namida/

 世界は広く歴史は奥深いことを痛感する映画。フィンランドの歴史にこんなにも哀切なドラマがあったとは…。ロシア革命後、ロシアから独立したばかりのフィンランドの血で血を洗う内戦をとらえた衝撃の恋愛ドラマ。残酷無残さに言葉を失った。

 1918年、右派・白衞隊は左派・赤衞隊の女性兵を追い詰め、拷問、暴行、処刑…。リーダーのミーナ(ピヒラ・ビータラ)は脱出するが、准士官アーロ(サムリ・ヴァウラモ)に捕まる。アーロは他の士官と違い、公平な裁判にかけようと裁判所へ向かうが、孤島に遭難。病気のミーナを看病するうち、敵同士の2人に禁断の恋が芽生える…。 非情な判事エーミル(エーロ・アホ)の執拗な尋問にも毅然と黙秘を貫くミーナ。知性も良識もあるアーロは立場を超えて彼女を救おうとする。彼女の依頼で戦友の息子の消息も確かめたりもする。

 判事エーミルの変態ぶりがユニーク。ミーナを壁穴からのぞき見し、孤島で2人に何があったのか問いただし、自分の妻をアーロと過ごさせる。ミーナの捨て身の誘惑も判事には通じず、判事の方はアーロに誘いをかけるなど、いかにもファシストらしい性倒錯者ぶり。

  アーロは「エイノの母親を名乗れば釈放される」と伝えるが、ミーナは最後まで自分の名前を貫き、死刑を宣告される…。この強靱な思想性には感服。なおも逃がそうとアーロは苦闘するが、逃げるミーナを見守るうちに、仲間の銃弾を浴びる…。

 こんな状況のもとでも愛が芽生え、それを死を迎えるまでまっとうできたことに深い感銘を覚える。20世紀初頭、人類の希望は科学の進歩と共産主義だった。ともに広く地球上に恩恵をもたらしたが“左右の対立”もまた激化した。その後、ソ連の崩壊と中国の変質まで80年以上もの東西対立が続いたのは歴史的事実だ。

 もう100年近く前、フィンランドで革命思想に命をかけた女性兵士の鮮烈な生きざまは、共産主義がどれほど人類の希望であったかの証明といえるだろう。これほどの傷ましい歴史をフィンランドはどう総括したのか。その後の第2次大戦時はどう乗り越えたのか、新たな歴史的視点を開かれた気がする。
 
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