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★一枚のハガキ

(C) 2011「一枚のハガキ」近代映画協会/渡辺商事/プランダス
『一枚のハガキ』
〜新藤兼人監督からの最後のメッセージ〜

(2011年 日本 1時間54分)
監督:新藤兼人
出演:豊川悦司、大竹しのぶ、六平直政、大杉漣、柄本明、
    倍賞美津子、津川雅彦

2011年8月6日〜テアトル新宿、先行上映
8月13日〜テアトル梅田、ほか全国にて公開

公式サイト⇒ http://ichimai-no-hagaki.jp
 99年もの間、募らせてきた情念が籠もる。日本最長老・新藤監督の“最後の映画”には、これだけは何としても言っておかねば、という戦争体験作家の鬼気迫る執念がほとばしる。それほど戦争への憎悪は凄まじい。
 昭和19年、徴集された中年兵・松山(豊川悦司)は、仲間の兵士定吉(六平直政)から一通のハガキを見せられる。妻からのハガキには「今日はお祭りですが、あなたがいないのでなんの風情もありません」と書かれていて、松山は「俺が死んだら代わりに確かに読んだ、と届けてくれ」と頼まれる。
 それだけの簡素な物語である。実際に戦争末期に召集された監督の最後の思い出、取って置きの挿話ではないか。かつて、新藤監督から「戦争とは」という話を聞いた。いろんなところで、いろんな映画で、戦争について語ってきた監督の言葉は記憶に鮮明だ。「戦争は何万人死んだといった数字じゃない。大事な、かけがえのない人がある日、スッといなくなってしまうことなんだ」。体験に根ざした言葉には千金の重みがあった。
 映画は「愛する家族がいなくなる」感覚を見事に映像化する。田舎の古い家。定吉が万歳で見送られて出征する。カットが変わると、定吉の妻友子(大竹)が白木の箱を抱えて帰ってくる。箱には何も入っておらず、定吉は友子の前からスッと消えたのだった。極貧の村、友子は定吉の両親に頼まれて、しきたり通り、次男の三平と結婚するが、彼にも召集令状が届き、三平出征→白木の箱の帰還が繰り返される。“運の悪い一家”は父(柄本明)が突然死に、母(倍賞美津子)が自殺。一方、ハガキを託された松山は、妻(川上麻衣子)が夫の“戦死の報”に夫の父親と出奔してしまい、ブラジル移住を決意する。旅立つ前に、死んだ仲間のハガキを届ける…。
 戦争中、終戦直後、日本各地であったであろう話をつないだ物語のなんという説得力。友子を訪ね、定吉の最後の様子を話して聞かせる松山に「あんたはなんで生きてるの?」と素朴な疑問をぶつける。100人中、96人が死に、松山ら4人が生き残ったのは、ただのくじ運…。新藤監督も宝塚で終戦を迎えた。どんな思いで生きてきたか、この映画で吐露したように思える。99歳にして思いのたけをストレートにぶつけられる創作意欲には頭が下がる。 
  学生時代から新藤作品には数多く親しんできた。高校時代、年をごまかして入った「鬼婆」、セリフのまったくない「裸の島」には驚いた。この映画で主演した音羽信子と殿山泰司は水の入った天秤を本当に担いで撮影した。“天秤のしなり”を出すため、だった。最後の映画でおさらいをするかのように“本物”の天秤が登場して、大竹と豊川が担いでみせた。生活に根ざした人々にリアリティー、説得力があるのは当然だった。大地に根ざした人間、その暮らしぶり、そんな愛おしい人々を有無を言わさず死地に持っていく戦争。監督の「最後のハガキ」(映画)は確かに届いた。かけがえのないメッセージは後の世代に確実に届けなければならない。
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