「土砂降り」と一致するもの

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骨太ヒューマンドラマ『ひとくず』がシネコンで拡大公開!上西監督、木下ほうかに「次はラスボスでがっつり!」
(2021.2.19  なんばパークスシネマ)
登壇者:上西雄大監督、木下ほうか、徳竹未夏、古川愛
 
 
 子ども時代に虐待を受けた者が、虐待する側にまわる負の連鎖に着目し、孤独な魂が寄り添い、家族になるまでの日々を人間味たっぷりに描く上西雄大監督作『ひとくず』。昨年の3月に東京公開されたものの、コロナウィルス感染拡大の緊急事態宣言で上映が中断し、京阪神での公開も10月に大幅にずれ込んだものの、作品を見て感動した観客が『追いくず』という熱烈なリピーターになり、第七藝術劇場の上映終了後もセカンドランのシアターセブンで3か月に渡るロングラン上映を続けている。今年に入って東京、神戸、京都でのアンコール上映に続き、全国拡大公開も始まり、遂にお膝元のなんばパークスシネマで上映が始まった。なんばパークスシネマ公開初日(2/19)に上西雄大監督、木下ほうかさん、徳竹未夏さん、古川愛さんを迎えて行われた舞台挨拶の模様をご紹介したい。
 
 
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 主人公の母親役の徳竹未夏さんと娘を虐待する母親役の古川藍さんの二人が司会役となった舞台挨拶では、感染拡大防止で50%の減席ながら最大スクリーンでの上映でリピート13回の『追いくず』なども含めて200人を越える満席の客席と、今までにないシネコンの巨大なスクリーンを見て上西監督は感極まった様子で最初の挨拶。その様子を見た木下ほうかは「1シーンしか出ていません。気まずい、なんで呼んだん?」と吉本新喜劇ばりの絶妙なツッコミで笑いを呼んだ。
 
 
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 そんな木下にオファーした経緯を聞かれた上西監督は、「劇団員の前で『木下ほうかさんに出てもらいたい』と言ったとき、夢のような話だと思って誰も信じなかった。ほうかさんに脚本を読んでもらい、最後に『がんばろう』と握手して言ってもらえたんです。ここまでこられたのは木下ほうかさんのおかげ」と木下に感謝の言葉を伝えると、木下も「小規模の映画で3月から上映が開始され、1年以上続いて、こんなにでっかいスクリーンで!というか画質大丈夫(笑)。次もどんどん新作撮れる、それはもっと目立つ役で!」と同作の拡大公開を心から喜びながら再タッグをリクエスト。上西監督も「次はラスボス役でがっつり!」ともはや息ピッタリのコンビぶりをみせた。
 
 
 さらに上西監督はここまでの歩みを振り返り、「一旦、コロナで劇場がロックダウンされて、上映が半年間止まっていましたが、10月から大阪で上映が再開できました。こういう状況なので、劇場で舞台挨拶出来るのは本当にありがたいし、最上段までお客さまがおられて感無量です。やっとの思いで東京でロードショーにこぎつけ、万感の思いで今日は本当に一生に残る思い出です。ここまで来れる力を与えていただいて、本当にありがとうございます』と感謝の言葉を重ねた。さらに、「虐待について知って心が壊れ、救いを求めて書いた脚本ですが、非常にたくさんの方が受け取っていただいた。映画が終わればいろんなお言葉をいただけて、その人の人生のそばに置いていただける。僕は役者として意義を持てました」と『ひとくず』がお客様に届いたことの意義を改めて語った。
 
 

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 『ひとくず』サポーターの方々から花束贈呈も行われ、感極まっているキャストたちにツッコミを入れてきた木下も「これちょっと泣きそう・・・ちょっとかっこ悪い・・・」と、ついに本音が飛び出した舞台挨拶。最後は、「『ひとくず』はこんな土砂降りの中でも、走りきれると思うし、コロナの波が終わった後まで走りきる力を持っている映画です。観ていただいて、口コミの方を広げていただいて、たくさんの方にいろんな思いを伝えられるように力添えをお願いいたします。みなさま、誠にありがとうございます』と上西監督が締めくくった。これからもまだまだ多くの人に届いてほしい、熱い思いが詰まったヒューマンドラマだ。
(江口由美)
 

<作品情報>
『ひとくず』(2019年 日本 117分)
監督・脚本・編集・プロデューサー:上西雄大
出演:上西雄大 小南希良梨 古川藍 徳竹未夏 城明男 税所篤彦 川合敏之 椿鮒子 空田浩志 中里ひろみ 谷しげる 星川桂 美咲 西川莉子 中谷昌代 上村ゆきえ 工藤俊作 堀田眞三 飯島大介 田中要次 木下ほうか
現在、なんばパークスシネマで絶賛上映中、2月27日〜元町映画館、3月12日〜京都みなみ会館でアンコール上映
公式サイト→https://hitokuzu.com/ 
 
 
 
 

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筒井真理子、脚本を読んで「深田監督はどこまで市子をいじめるのかと思った」
『よこがお』大阪舞台挨拶
(2019.7.28 テアトル梅田)
登壇者:深田晃司監督、筒井真理子 
  
 『淵に立つ』で高い評価を得た筒井真理子を主演に迎え、ある事件をきっかけに加害者扱いをされ、全てを失う女の絶望とささやかな復讐、そして再生を描いた深田晃司監督最新作『よこがお』が、2019年7月26日(金)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、MOVIX京都他全国ロードショー中だ。
 
 公開2日目の7月28日(日)テアトル梅田で開催された舞台挨拶では、名古屋の舞台挨拶を終えて駆けつけた深田晃司監督と主演の筒井真理子が登壇。筒井が演じた市子とリサの物語の余韻に浸っている観客を前に、「まだ心の整理がつかない時に、生身の私が出てきてすいません」と前置きした後、いよいよ映画が公開され「公開を心待ちにしてくださった方と一緒に過ごせるのはうれしい」(筒井)、「映画は作り終わって完成というより、見ていただいて完成という気持ちが強く、ようやく映画が生まれたなという感じです」(深田)と挨拶。8月に開催されるロカルノ国際映画祭国際コンペティション部門に正式出品されることが決定したことに触れた深田監督は、「ロカルノは格式ある映画祭。ここ数年、品質重視の選考がされていますし、自分の信頼している監督もそこで世界で向き合っている」と喜びを表現した。
 

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■「筒井さんならやってくれる」

深田監督が、筒井真理子を信頼し、ブレーキをかけずに描いた注目シーン秘話。

 
 今回、筒井は天使のような看護師市子と、ある計画を企んでいるリサという全く違うタイプの女性を熱演しているが、台本を読んだ時の感想を、
「監督はどこまで市子をいじめるのかと思いました。犬のシーンが出てきた時に素敵と思ったけれど、自分が演じるのかと思うと…」と語り、一抹の不安がよぎったことを明かした。
 
犬になりきり公園まで駆けていく、女優で世界初の四足歩行アクションシーンでは、大阪の名物番組「探偵!ナイトスクープ」で取り上げられた四足歩行ギネス記録保持者にお願いして実技指導をしてもらったという。
 
「簡単そうに見えるけれど、かなり体が痛いんです。それを言えずに黙ってやっていましたが、指導してくださったプロの方が本番の時にも来てくださり、走って見せてくださった時、あっ痛い!と言ってくれたので、私も痛いと言えるようになりました」と苦労話を披露。深田監督も「映画監督は自分でできないことを人にさせる仕事だから」とサラリと言いながらも、その裏には筒井に対する絶大なる信頼があったそうだ。
 
「脚本を書く前に筒井さんの出演が決まっていたのは、監督としてすごく恵まれていた。映画はスタッフも俳優もいる総合芸術。脚本を書く時に、多面性があり、精神状態も違ってくる役を書くとなると、俳優が演じられるのかを心配してブレーキをかけてしまうのだが、筒井さんならやってくれるだろう。髪を緑に染め、湖の中に入ったりということも、彼女ならやってくれるだろうと、ブレーキをかけずに書くことができました」
 
一方、実際に雪が舞うような氷点下の湖に何度も入水したという筒井は、「待っている間は車で暖かくさせてもらっていましたが、スタッフの人は土砂降りの中でも、誰1人中に入らず、(この映画は)愛でできていると思いました」と苦労を分かち合ったスタッフを讃えた。
 
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■筒井真理子さんと孤独がモチーフ。

日常のふとしたきっかけで孤独を感じる瞬間に『よこがお』を思い出してほしい。(深田監督)

 
 観客から公園のシーンが多いことに対する狙いを問われた深田監督は、
「人間は半分は社会的で、半分は動物的部分を持っています。今回、市子の社会的な部分が削がれ、個人の孤独にまで削ぎ落としていければと思いました。どんなに社会性が剥奪されてもそれが完全に失われるものではありません。(公園という)パブリックスペースの方が、砂漠の中に1人でいるより、孤独感が際立つのではないか」
 
この「孤独」は、本作をはじめ、深田監督作品に通底するモチーフだという。
「映画はモチーフと世界観からできていると思っていて、今回は筒井真理子さんが大きなモチーフでした。そして自分の中に毎回あるモチーフは孤独です。人間は生まれてから死ぬまでの孤独であり、孤独のままだと生きているのは辛いから、家族や会社に属して生きる。そんな日常の中でもふとしたきっかけで孤独を感じる瞬間があるけれど、そんな時にこの映画を思い出してくれれば」
 

 

■試写では、市子の気持ちになって泣いてしまった。(筒井)

 

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 劇団時代に鍛えられ、客観的に自分の芝居を見る訓練ができていたという筒井は、『よこがお』の試写で、未だかつてない感情に見舞われたという。
「市子の気持ちになってずっと泣いてしまい、試写室では一番最後、フラフラになって出てきました。今回は自分の演技を見る時、こんな風になるんだと思いました」
 
 さらに、今でも思い出す作品として遠藤周作の小説「わたしが・棄てた・女」を挙げ、
「読んだ時は全然わからなかったけれど、ズシンと残る作品。後々、後ろめたさがふっと思い出され、この作品がベストセラーなら、読者はみなそう感じているのかと思うと、孤独ではないな」と感じたという。筒井は最後に、「座談会でも開いて感想をお聞きしたいです。ぜひ、感想を書いてつぶやいていただけたら、まめに見にいきます。お話をお聞かせください」と船出したばかりの本作への反応に期待を寄せた。
 

 

■自分が思った以上に今の社会に重なる作品。(深田監督)

 
 前作同様、鑑賞後にズドンとした気持ちになるという観客から、人間関係の揺らぎを痛切に描いた深田作品ならではの世界観について話が及ぶと、
「自分にとって家族や人間の関係性は移ろいやすいという認識があります。『淵に立つ』では浅野さんがくることで、家族が変わってしまう。天災と同じで、私たちの生活は良くも悪くも揺らぎやすいものです。『海を駆ける』にも、その世界観が繰り返し出てきています」
 
  最後に、昨今の嘘を鵜呑みにするマスコミや世間の風潮を引き合いに出しながら、深田監督は、
 
「自分が思った以上に今の社会にフィットしていると思っています。政治の汚職や闇営業など、ものすごいスピードで事件が起き、作り手からすればすごく重なって見えます。また、音にもこだわっていて、クラクションは映画館ギリギリのボリュームで設定しているので、ぜひ映画館で見ていただきたい映画です」
と、時代に重なる本作の魅力と、こだわりの音作りについて語った。
 
 
 どん底に突き落とされることもあれば、光がさすこともある。誰にでも起こりうる人生の転落と圧倒的な孤独感だけでなく、様々な形の愛と再生をも描いたヒューマンドラマ。各登場人物の揺らぎから、いくつもの物語を紡いでほしい。
(江口由美)
 

<作品情報>
『よこがお』(2019年 日本 111分) 
監督・脚本:深田晃司
出演:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、吹越満、須藤蓮、小川未祐他
公式サイト⇒https://yokogao-movie.jp/ 
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