「ローマの休日」と一致するもの


大正12(1923)年5月、江戸時代から続く芝居街・道頓堀に‟日本最初の鉄筋コンクリート造の活動写真館”として建築・開場された大阪松竹座は、本年、開場100周年を迎えました。


現在の松竹座は、平成9年(1993)3月の新築再開場以来、歌舞伎、喜劇公演、一般演劇、レビュー、ミュージカル、コンサート、落語会などの幅広い舞台公演を上演する演劇専門劇場として親しまれていますが、100年前の創建当初の松竹座は「実演のできる映画館」という当時最新のコンセプトのもと、優秀映画の上映と新進気鋭の多彩な実演を組み合わせた新しい興行スタイルの劇場として大いに人気を博しました。その後、戦前から戦中にかけては時代の情勢とともに徐々に映画上映に軸足を置き、昭和20年(1945)の大阪大空襲にも耐えた松竹座は、終戦直後の8月には早くも映画興行を再開。戦後は主に邦画洋画の封切館として数々の名作大作映画とともに、およそ半世紀に亘り映画ファン憧れの劇場として親しまれました。


今回、大阪松竹座の開場100周年を記念して、かつて映画館として長年皆様に愛された松竹座を会場に、ゴールデンウィーク期間中の特別映画イベント《道頓堀 松竹座 映画祭》を開催する運びとなり、この度、上映作品ラインナップが決定いたしましたのでお知らせいたします。


洋画上映作品は、かつて松竹座で上映された「風と共に去りぬ」「ジョーズ」「E.T.」などをはじめ、「ローマの休日」「アラビアのロレンス/完全版」「2001年宇宙の旅」等の名作を選りすぐりました。

邦画作品は松竹大船作品から「君の名は(第1部)」、生誕120年を迎えた小津安二郎作品「東京物語」、同じく生誕110年を迎えた木下惠介作品「喜びも悲しみも幾年月」、山田洋次作品「男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎」など松竹映画の不朽の名作とともに、近年松竹座の舞台公演でも活躍した関西ジャニーズJr.等の主演映画もラインナップいたします。さらに大阪で唯一の活動写真弁士・大森くみこ出演によるサイレント映画の特別上映にもご注目ください。

ゴールデンウィークの特別映画イベント「道頓堀 松竹座 映画祭」にどうぞご期待ください。



(オフィシャル・リリースより)

audrey-550ー(C)PictureLux  The Hollywood Archive  Alamy Stock Photo.jpg

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阪神淡路大震災の1年後、1996年にスタートし、今年で第20回の節目を迎えた神戸100年映画祭が、11月2日にピフレホール(新長田)で開幕、奥田瑛二さんを迎えてのトークショーが行われた。毎年テーマを設定し、神戸で撮影した作品や往年の名作を上映、ゲストを迎えてのトークを交え、映画ファンにとって神戸の秋の風物詩となっていた映画祭だが、残念ながら今年で一旦その幕を閉じる。
 
今年のテーマは「震災20年、戦後20年」。2日は奥田瑛二さん自らが選んだ、生命の尊厳と戦争の狂気を描いた『海と毒薬』が上映され、3日は「健さん、ありがとう!」と題した『駅 STATION』追悼上映時に、20年前神戸の被災者を励ますため高倉さんが吹き込んだ20分のメッセージが流された。2日のオープニングでNPO神戸100年映画祭代表理事の石田雅志さんが「DVDで観た作品はすぐに忘れてしまうが、映画館で観た作品は忘れません。いつ、どこで、誰と観たかを鮮明に思い出すことができます」と、映画祭だけでなく映画館に足を運ぶ人そのものが減少傾向にある今、改めてスクリーンで鑑賞する意義を言葉にされていたが、来年以降も継続する「新開地 淀川長治メモリアル」をはじめ、神戸100年映画祭がまた新しい形で再出発する日を、一映画ファン、映画祭ファンとしても楽しみにしていたい。
 
初日の11月2日は、午前中の『海と毒薬』上映に引き続き、モントリオール映画祭グランプリ受賞作『長い散歩』上映が行われた。上映後に開催された奥田瑛二さんを迎えてのトークショーでは、午前中から映画を鑑賞し、感動冷めやらぬ観客の熱い拍手に応えて、奥田瑛二さんがにこやかに登場。シネマパーソナリティー、津田なおみさんの司会により、『長い散歩』撮影秘話をはじめ、硬軟合わせたトークが繰り広げられ、大いに盛り上がった。その主な内容をご紹介したい。
 

 
―――『長い散歩』は今日、久しぶりにご覧になったそうですね。少し目に涙も浮かんでいらっしゃいますが。
自分が撮った映画で、悪い映画はありませんが、『長い散歩』はもう一度撮れと言われても撮れません。(映画制作については)自分の会社、ゼロ・ピクチュアズで、原案から全てを手掛けています。大きな映画会社に企画を持っていけば、もう少しお金はいただけるが、口も出されます。口を出すのはプロデューサーですが、大体感性が悪いので、私の命がけの作品をそんな風にいじられた日には、死んでも死にきれません。今の世の中は、社会の病巣にネガデティブなものがいっぱいあります。それに眼差しを向け、人間模様や人との関わりを描く中で、明日に繋がればいいなというのが、僕が映画監督になった最大のテーマです。それは『海と毒薬』の熊井啓監督から教わった最大のことでもあります。
 

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―――老いや若者の自殺など様々なテーマが描かれていますが、作品の発想はどこから来たのですか?
緒形拳さんとネスカフェのコマーシャルを、千葉の山奥で焚き火をたきながら撮影していたときに思ったのです。アメリカならアンソニー・ホプキンスなどの名優が主役になる映画があるが、日本は年を取れば本当はいい俳優になるはずなのに、逆に脇に追いやる風潮があり、それはダメだと。「緒形拳という名俳優をこのままにしてはいけない」と勝手に思いながら帰る車中、緒形拳主演で何かいいストーリーはないかと考えました。教育者だった人が児童虐待に関わるというのはどうだろうかと。3時間半で大まかなストーリーが作れたので、すぐ緒形さんに電話し、ストーリーを説明してみると「一度お会いしないといけないね。君とコマーシャルで一緒の時に、とっても素敵な人だと思った。一度会おう」と言ってくださり、その後快諾いただきました。
 
すぐに脚本に取り掛かり、最初は不安だったので、女性の脚本家に入ってもらい、ストーリーの柱を作って、第一稿を仕上げました。そこから第二稿、第三稿は自分で書き足し、最終稿が出来上がるまで、僕は、必ずキッチンのテーブルに脚本を投げておくんです。すると、まずはかみさん(安藤和津さん)が夜中に見て赤鉛筆で赤が入り、次は長女(安藤桃子さん)が「お父さん、若い子はああいう言葉遣いはしないよ。翔太君のところなんだけど」と。次女の安藤サクラは何も言わないので、これらの指摘をこの野郎!と思いながら読み返し、プラスにしていきます。何度かキッチンに置いていたので、随分役に立ちました。出来上がった時、初脚本で、「脚本、奥田瑛二」というのは恥ずかしかったので、家族の名前を合わせ「桃山さくら」にしました。
 
―――スーパーバイザーに奥様(安藤和津さん)の名前もありますね。
撮影が10月中旬から11月の初旬の寒い時期で、弁当では気の毒だと、炊き出しで豚汁を作ったり、弁当で添加物が入っているのは良くないから野菜を買ったり、もらったりして炊き出しを作ってもらっていたのです。それを含めてのスーパーバイザーですね。
 
―――冒頭は、ほぼ緒形拳さんの背中のシーンで、娘が見ているのもお父さんの背中なのが印象的でした。
(背中を撮るのは)緒形拳さん、もしくはそのクラスの俳優でないと成立しません。普通は怖がるものですが、怖がらず背中から撮りました。僕の緒形さんへの尊敬の念と憧れの念をこめ、今回の安田役は背中を撮ろうと決めていました。
 
―――ラストシーンも緒方さんの正面と背中のカットですが、光が射し、希望が見えました。
上映後に、ラストシーンの後どうなったのかとよく聞かれますが、実は刑務所から出てきた後の生活までメモに残っています。緒形さん演じる安田世代の先生は権威主義なところがあり、戦中世代でもあります。僕も小中学生の頃、少し悪いことをすると往復ビンタされましたが、安田はそういうところがありながら、校長までのぼりつめ、自分の家族を愛することが出来なかった人物です。誰もが年を重ね死んでいきますが、死ぬ前にきちんと精算し、死を成立させることが大事で、その十字架を緒形さんに背負わせました。安田が(母親に虐待されていた)サチと旅をするのは誘拐です。犯罪は犯罪なので、きっちり始末をつけました。刑務所から出てきたときサチは立っていなかったですが、(映画で5歳のサチが映ったのは)彼の心の奥底にある願望なのです。安田は断絶状態だった娘のところに行き、刑務所で書いた手紙を渡す。娘は父のためにアパートを借りてくれ、娘と話し合います。そうして、娘もようやく父を受け入れ、別々には過ごすが安田は人生を精算するためのいい時間を過ごしたのです。
 

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―――サチのその後はどうなったと考えていますか?
重要なのは虐待を受けていた5歳の子が、(安田との旅を経て)母親の元に戻ると、同じ虐待を受けることになるということです。映画を撮った当時は、親の虐待から子どもを守る法律ができるかどうかギリギリのところでした。僕の考えは18歳か20歳ぐらいになるまでサチは絶対に母親に合わせるべきではない。でないと彼女の心が壊れてしまうでしょう。
 
最後の方に、サチの母親(高岡早紀)が雨の中を傘もささずにいるシーンがありますが、彼女は出口が全く分からない鏡の迷路に入っているのです。サチが戻り、一度は抱きしめるけど、また同じ虐待を繰り返すでしょう。サチは養護施設で明るく成長を遂げる。そして、サチが18ぐらいのときに母親と再会し「私のことを覚えてる?」「覚えています」と言い合えるような虐待のない二人の暮らしがあり、それぞれのシチュエーションでお互いがどう思うかと。そこまでストーリーを構築し、今の場所で終わらせています。そうして観た方が、その後の人生を考えて下さったらいいなと思っています。
 
 
―――高岡早紀さん演じる母親が、足の指の間にクリームを塗っているシーンだけで、こういう女の人なのだと、くっきり分かりますね。
黒いスリップを身に着け、一人で色気ぶっている。美しくても生活感があり、娘を虐待している女性を演じてもらいました。テストの時に黒いスリップとブラジャーをつけていたので、「取れ、ブラジャー。とらなきゃ中止だ!」と怒鳴ったこともありました。やはり、四つん這いになり、たわわな胸の輪郭が見えるのは裸よりもドキリとしますから。
 
 
―――『長い散歩』は街の景色や、登場人物たちが住む街がどんな姿をしているか、きちんと教えてくれるので、観る者にとって親切で、家族を立体的に捉える力になります。
そう言っていただけるとうれしいです。ロケハンは、通常制作部という部署があり、そのチーフが何千枚も撮ってアルバムにし、ラインプロデューサーに見せるのですが、僕は頭の中で台本を全部書いた後に、一人で行き、一人で街の人に聞いてまわるのです。街をくまなく、隅から隅まで歩き、時には住んでいる方の家にお邪魔することもあります。奥田瑛二ですから(笑)。「どうしても家の門構えが撮りたいのでお会いできないでしょうか?」と、たとえその家の主が頑固だからやめておけと言われても、交渉しますね。
 
ラストの駅前で、安田がひざまずいて泣き、通行客が集まるシーンがありますが、あの「上尾張駅」は実際にはありません。架空の街にし、山の名前も全て架空にしています。ファンタジックに撮りたかったので、現実の街の名前を全部架空にしました。公民館を駅に仕立て、役場に警察署を作った訳です。岐阜県笠原町の350名のエキストラの方に全部説明して様々なコスチュームを着てもらい、通行人として出演いただきましたし、バスや、タクシーを行ったり来たりさせて、複数台通っているように見せました。
 
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―――奥田さんは、他の俳優さんではできないような、「ちょっとだめ男だけどラブシーンが多くて、若い女性に惚れられる」役をよく演じておられます。主演最新作の高橋伴明監督『赤い玉。』でも女子高生に翻弄される役どころですが。
15年ぶりのラブシーンでしたね。同い年の高橋伴明監督と話をし、今の映画はダメだなと。日常の中にエロティシズムが満載なのに。ネガティブな摩擦もあれば、ポジティブな摩擦もあるけれど、今の映画は全部それを省いている。それらを今の時代に取り戻そうということで書かれたのが、とんでもないエロエロの台本でした。この年で全裸かよ(笑)と。どうしようか。腕立て伏せ、ジムに通うかと思いましたが、結局この年の体をさらしましたよ。
 
―――前貼りは一切貼らないそうですね。
デビュー作『もっとしなやかに もっとしたたかに』のとき、前貼りで大変な目に遭いました。今でいうガムテープのような素材でしたから、剥がすのが大変で。また、ガムテープのところが映ると、フイルムだからもったいなかったんです。緒形さんも付けたことはないでしょう。いい俳優は前貼りを付けないですね。(「エロスの王様」と呼ばれることに対して)当時、不倫したい男のナンバーワンでしたから、そういう意味では自負していますよ。枯れることは死ぬまでありません。人生、枯れたら男も女も終わりですから。
 
―――(観客からの質問で)奥田さんにとって一番好きな外国映画、日本映画、そして監督は?
自分がずっと思っている映画は、黒澤明監督の『椿三十郎』です。三船敏郎さんのなんともいえない魅力、そして映画の中に溢れる優しさと強さ。あれを越える映画は僕の中にはないということで、ベスト10の中の4、5本は黒澤映画が占めてしまいます。外国映画は、表ベストワンと裏ベストワンがあります。裏ベストワンは『ブレードランナー 完全版』が、映画の中で僕の理想の形です。エンターテイメントとしても、映像の美しさも、地球という問題も含めた中で、あの作品は大好きです。
 
表ベストワンは『ローマの休日』で、50回ぐらい観ています。ぜひ、おうちに帰られたらDVDを借りてご覧になっていただきたいのですが、新聞記者とアン王女は結ばれているのか、結ばれていないのか。そこが50回見ると分かるんですよ。僕は2年前に「おー、見つけた!」と。アン王女がジャーナリストとの謁見の際に新聞記者を見つけ、目と目がぶつかる。その関係性を「わぁ二人が結ばれなくてかわいそう。でも新聞記者と王女では仕方ない」と思うと、見方が浅いです。あの目の切り替えしをもう一度見ると、「あぁ。良かったね、君たち。たった一日だったけど、うん、よし。その思い出を大事に生きるんだ」というのが、目の輝きの中にあります。
 
―――最後に、『ブラック・レイン』で松田優作さんが演じた役のオファーが、最初奥田さんにあったとお聞きしました。
ちょうど『海と毒薬』をニューヨークで観て「感動した」というプロデューサーから、オーディションなしでオファーがありました。凶悪な犯罪者だが、見た目が普通の青年という役柄で、当時はやったと思ったのですが、舞台と熊井啓さんの映画『千利休 本覺坊遺文』のスケジュールのど真ん中に撮影スケジュールが入っていたのです。東京に来ていたプロデューサーに出演できない旨を話すと、「お前は馬鹿か、この映画に出ればいいんだ」と言われたのですが、「日本人には義理があり、それは絶対に守らなければいけないこと。それを反故にしてまで自分のチャンスを掴むと、自分がダメになってしまうし、神様も許してくれない。だから僕は舞台と熊井啓監督の作品を大事にしたい。とても残念だけど」と説明すると、「分かった。ところで、君の着ているスーツはどこのだい?」と(笑)。後悔はしていません。89年10月10日に東宝マリオンのスクリーンで、『ブラック・レイン』と『千利休 本覺坊遺文』が同時公開されたときは、感無量でしたね。

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13日から行われる「新開地 淀川長治メモリアル」@神戸アートビレッジセンター2FKAVCホールでは、『ロミオとジュリエット』、『二十四の瞳』(いずれも13日)、『大人は判ってくれない』(14日)を上映。また同日には、東日本大震災前の人の営みを伝えるドキュメンタリー映画『波伝谷にい生きる人々』上映および、我妻和樹監督トークを開催する。

 
その他、元町映画館や神戸アートビレッジセンターB1F KAVCシアターでも上映あり。
詳しくは、第20回神戸100年映画祭まで http://kff100.com/
 
(江口由美)
 

bachikan-550.jpg『バチカンで逢いましょう』

SFT-550.pngSFT西尾監督-2.jpg『ソウル・フラワー・トレイン』西尾孔志監督インタビュー

(2013年 日本 1時間30分)
監督: 西尾孔志
原作:ロビン西『ソウル・フラワー・トレイン』
出演:平田満、真凛、咲世子、大和田健介、駿河太郎、大谷澪他
2014年1月18日(土)~第七藝術劇場、2月22日(土)~京都みなみ会館、3月8日(土)~神戸アートビレッジセンター
※第七藝術劇場公開時の西尾監督、キャストによる舞台挨拶、ゲストを迎えてのトークショー(連日)詳細はコチラ

公式サイト⇒http://www.soulflowertrain.com/

(C) ロビン西 / エンターブレイン

 

 

~大阪を舞台に描く究極の「子離れ」物語。懐かしくてロックな人情喜劇!~

 大学に通う娘のもとを久しぶりに訪れる田舎の父親の素朴さと、いつまで経っても子どもの頃の娘の面影を胸に抱く親心が胸を打つと同時に、昭和堅気の父親像が非常に懐かしく思える。監督は本作が長編劇場デビュー作となる西尾孔志。漫画家、ロビン西の短編をもとに、父親が旅の途中で出会った少女あかねとの珍道中や、美しく成長した娘の真実を受け入れるまでの葛藤を、時には滑稽に、時には切なく活写している。大阪映画でおなじみの新世界をはじめ、日劇会館(旧作邦画専門の二本立て映画館)や、ストリップ劇場など、大阪で生まれ育った西尾監督が表現する大阪は、そこに住む多様な人たちの息吹が溢れているのだ。少年ナイフが歌う主題歌『Osaka Rock City』にのって、父親役の平田満をはじめ、真凛、咲世子と関西出身の新世代実力派俳優がみせる人情劇。いつの世も変わらぬ「子離れ」「親離れ」がロック感溢れるテイストで表現されていたのも新鮮だった。
 本作の西尾監督に、デビュー作を人情喜劇にした経緯や、平田満さん演じる父親役に込めた狙い、大阪を舞台に映画を撮るにあたって表現したいことについてお話を伺った。


■『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』のように、伝統的な日本映画のエンターテイメントをまた観たかった。


SFT-3.png―――『ソウル・フラワー・トレイン』は西尾監督の長編劇場デビュー作であり、大阪を舞台にした昔懐かしい人情喜劇になっていますが、このような作品にしようと考えたきっかけは?
『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』など、自分が20代の時は古臭くてあまり観ようと思わなかった作品を今観ると、面白いんです。プロの職人の仕事として良くできているし、もちろん尖った部分はありませんが、すごく安定して面白い。僕は10代のとき撮影所で働いていたことがありました。深作欣二さんや工藤栄一さんの現場でも働きましたが、両監督作品のような日本映画のエンターテイメントがすごく好きです。丹念に作られていて、決してチープではない。こういう作品を自分なりに継承したい、ああいうエンターテイメントがまた観たかった、そもそも寅さんのような人情喜劇を劇場デビュー作で撮る人は珍しいでしょう。僕は今までインディーズで映画を作っていたので、インディーズ=ちょっと尖った感性の映画というイメージがあるかと思いますが、逆に日本の伝統的なエンターテイメント映画を目指した人間喜劇にしました。

―――ロビン西さんの原作を映画化しようと思った理由は?
漫画関連イベントを手がけている巴山(はやま)君と芸術創造館勤務時代の上司の前田さんと僕との三人でALEWO企画というユニットを作りました。映画の西尾、漫画の巴山、演劇の前田というそれぞれの色分けができているユニットなので、それぞれの強みを生かした作品づくりを狙い、その第一弾は僕と巴山君の好きな漫画家ロビン西さんの作品で、大阪が舞台の『ソウル・フラワー・トレイン』にしようとすんなり決まった感じです。既にロビン西さんと交流のある巴山君と一緒に映画化のお願いをしにいき、快諾していただきました。

SFT-5.png―――今までの西尾監督作品も、女の子が可愛かったですが、今回は本当にどの女の子も魅力的でした。
女性キャストたちはルックスもすごくいいのですが、お芝居もうまいですね。配役の面では前田さんの役者関係の人脈を活かして、大手プロダクション所属の役者さんにオーディションを受けに来てもらうことができました。皆さん東京で活動している方ですが、オーディションの条件が「関西弁がしゃべれる人」ということで、関西出身者が揃いましたね。

 

■原作と映画の違いに注目!ロビン西さんの原作があるからこそできたオリジナルストーリー。


―――西尾監督は共同脚本も手がけていますが、原作と変えようとした部分もたくさんあったのでは?
原作は今絶版中なので、『ソウル・フラワー・トレイン』劇場用パンフレットに原作を全て掲載しています。パンフレットを見ていただければ、原作を映画でどういう風に変えたかという部分にかなり驚いていただけると思います。原作と映画の違いは注目して観ていただきたいですね。映画の半分はオリジナルストーリーですから。

―――なるほど。それは鑑賞後に原作も読みたくなりますね。具体的に、原作からどのようにして脚本を膨らませていったのですか?
ロビン西さんに、こういう風に変えていきたいという話をしたら面白いと思っていただき、僕と同じく脚本の上原さんとが何度か書き直したものを、二、三度ロビン西さんに見ていただき、意見をもらいました。原作者は普通映画化されるとき、脚本にはノータッチのケースが多いですが、今回はロビン西さんも一緒に作ってくださり、すごくこの映画を気に入ってくれています。東京で上映した際は、ゲストでもないのに後半毎日のように上映に来てくれましたし、原作者にそこまで気に入ってもらうのは、映画を作った者の冥利に尽きます。ロビン西さんの持っているテイストや、原作の空気はしっかり残しています。ロビン西さんの原作があるからこそ、ノリノリでオリジナル部分を膨らませた感じですね。

 

■父親のキャストイメージは「笠智衆」。父親役平田満さんのアイデアを取り入れた、子離れする親のラストシーン。


SFT-4.jpg―――クライマックスでストリッパーの娘を前にした平田満さん演じる父親の行動は、本当に勇気がありますね。あんな勇気を出せる父親はなかなかいないなと感動しました。
原作では様々な展開があった上で最後は色紙が家に飾ってあるんです。原作の肝の部分でもあるので脚本もそのまま使っていたのですが、平田さん自身が娘を持つ父親でもあるので、映画の父親の決断の気持ちが分かるからこそ、最後は子離れをしっかりしなければいけないのではないかと提案されました。「色紙を持って帰るということは、まだ子どもにこだわっているということなので、この色紙をどうにか処分できないでしょうか」とおっしゃってくださったので、それらの話を伺った上で僕が平田さんに提案したのは、船の上で捨てたのか忘れたのか分からないような曖昧な形で色紙を置いていく形でした。その色紙を風がさらって、もう戻らないような感じで表現しています。平田さんも脚本にアイデアを下さるような現場でしたね。

―――脚本にも平田さんはアイデアを出されたとのことですが、他に平田さん起用の決め手となった点や、平田さんが演じる父親像に託したことは?
父親は原作の通りの描写です。僕の中でこの作品のことを考えた時パッと頭に浮かんだのが小津安二郎の『東京物語』でした。本作も親が離れて暮らす子どもを訪ねていく話ですから、実はキャストイメージのところに「笠智衆」と書いていたんですよ(笑)。笠智衆さんがあの娘の姿にドタバタするというイメージが私の頭の中にあって、今ああいう頑固さと人としての純粋さを持った父親を誰が演じることができるかと考えたとき、平田満さんがピッタリはまりました。

 

■平成のじゃりんこチエ、花時計のストリップ劇場とダンサーたち、串カツ屋の在日コリアン客。大阪の下町を舞台に、多様な人間が住む均一的ではない魅力を描く。


SFT-2.png―――ナビゲーターのあかねというキャラクターは、大阪の子らしいイキイキとカラフルな感じが出ている部分とナイーブな部分の両面が見えていました。
大阪という場所でポジティブかつ行動力があって、しっかりしている子というと、昔でいえば「じゃりんこチエ」ですね。また山本政志監督の『てなもんやコネクション』(90)でもナビゲーターをやっているのは女の子なんです。あかね役を演じている真凛を見ていて「じゃりんこチエやっているなと」思っていました。

―――大阪映画だけあって、定番の大阪観光地を西尾監督流に入れ込んでいますが、地元の人間として逆に抵抗はなかったですか?
前半はべたべたな大阪観光ですよ。20代のときは大阪のベタベタな描写や大阪の観光地を撮るのを避けていたのですが、大阪以外の人からみればそんなこだわりは全く関係ないですよ。例えば『ローマの休日』で全くローマの観光地が映っていなかったら、つまらないじゃないですか。串カツ屋の「二度づけ禁止」なんて大阪では本当に当たり前のことなのですが、東京のお客様には「串カツ屋ってあんな感じなんですか?」と言われます。

―――確かに、登場人物は皆、人間くさいキャラクターですね。
例えばストリップ劇場の前の串カツ屋で劇場のことを紹介するお兄ちゃんも韓国人ですが、大阪の下町を描いて、日本人以外の人が出てこないのは不自然な気がします。在日コリアンの人を社会問題として取り上げるのではなく、普通に街で生きている人として登場するような話にしたかったんです。アジアの多様性や在日問題を掲げるのではなく、「アジア一のあじや!」みたいなしょうもないダジャレで終わらせたかった。その方が僕の知っている大阪の感じがでます。自分の周りに普通に多様な人間が住んでいる状況が、大阪の下町を舞台にすると描きやすいです。均一的ではない魅力ですね。

 

■もともと人間は愚かだけれど、そこが可愛いわけで、ダメな部分もいい部分も含めて肯定したい。


SFT西尾監督-1.jpg―――西尾監督が今までに影響を受けた監督は?
三人挙げると、一人目は黒沢清監督です。ハリウッド映画よりも予算が少ない日本映画にあって、ドラマチックに映画を語る術が非常に素晴らしいです。特にVシネマ時代のカット割りの影響をかなり受けていますし、今回も東京上映時ゲストに来ていただきましたが、「国際映画祭を狙ってアート的な映画を撮る若い人が増えているけれども、西尾君はジャンル映画を作る担い手になってください」と言ってくださいました。作品も含めて黒沢監督にすごく好意的に受け取ってもらえたのがうれしかったです。
二人目は林海象さんです。テレビドラマ『濱マイク』シリーズや『弥勒』(13)の監督もされていて、京都造形大学では私が講師、林さんは上司の学科長でした。映画を作るだけではなく、観客にどう届けるかといった上映まで含めた一つのエンターテイメントであることを教えてもらった気がします。
三人目は森崎東監督です。東京で森崎監督の特集上映が組まれる前年(08)に、京都造形大学で森崎東映画祭を学生と一緒に企画し、作品選定をさせてもらいました。森崎監督は日本の娯楽映画の担い手の一人であるわけですが、そこに描かれる人物像が一癖も二癖もあり、こちらの予想を裏切る複雑で入り組んだ人間であるところが、より感動を呼びます。

―――主題歌の『Osaka Rock City』や、登場人物の心情に寄り添うようなアコーディオンなど、音楽にも注目が集まる作品ですね。
少年ナイフ、赤犬のクスミヒデオさん、DODDODOさんと、今回はほとんど関西のミュージシャンの方ばかりです。僕がもともと大阪のライブハウスで音楽を聴くのが好きな人間なので、彼らと一緒に作品を作りたかったんですね。かんのとしこさんが弾いているアコーディオンのメロディーは、映画完成後にクスミヒデオさんが作曲してくださいました。クスミさんは今後も関西の映像音楽の重要なキーマンだと思います。ALEWO企画の前田さんが、かつての角川映画のように主題歌のある作品にしたいということで、大阪の映画だからロックテイストの曲を、少年ナイフさんにこの映画のために作っていただきました。今回、みなさんの音楽が本当によく映画にハマったと思います。

―――本作をどんな方に観ていただきたいですか?
この作品は映画を作っている学生や夢を追いかけている若い人と、そういう子どもを都会に送り込んでいる親御さんたちに見てほしいです。子どもがやっていることを認めるというのは、とても普遍的なことで、『ソウル・フラワー・トレイン』は子どもを一人の人格として認めて子離れをする話だと思います。30代後半以上の人たちの涙を誘うところもそこですね。また結構若いお客様から「久しぶりに実家に帰りたくなりました」と言ってもらい、うれしかったです。

―――最後に、これから大阪でどんな映画を撮っていきたいですか?
大阪に限りませんが、正義や悪、良識などある一辺倒の価値観に加担するようなことはしたくない。愚かな部分や汚らしい部分も含めて人間なのです。でもそういう部分はどんどん隠されてきているし、「人はこうでなくてはならない」とこだわっているから、逆に悪ぶることが受けたりします。もともと人間は愚かだけれど、そこが可愛いわけで、ダメな部分もいい部分も含めて肯定したい。色々な人がたくさんいるという状況が好きです。僕は、色々な人がいて、それぞれのペースで生きているのが街だと思っていますから。
(江口由美)

rome-love-550-1.jpg『ローマでアモーレ』

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(C) Sacher Film . Fandango . Le Pacte . France 3 Cinema 2011

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